機械設計において、使用環境の温度は材料選定の重要な要素のひとつです。特に高温環境では、材料の強度や寸法精度、耐食性などが大きく変化するため、適切な選定を行わないと部品の早期破損や機能低下を招く可能性があります。本記事では、高温環境下での材料選定における主な注意点を解説します。
高温環境での材料の影響と注意点
🚫 機械的特性の低下(強度・硬度の変化)
- 高温になると、多くの金属材料は降伏強度や引張強度が低下し、変形しやすくなります。
- 特に鋼材(SS400、S45Cなど)は高温での強度低下が顕著です。
- これに対して、耐熱鋼(SUH)や耐熱合金(インコネル、ハステロイなど)は高温環境下でも強度を維持しやすい特性を持っています。
🚫 熱膨張による寸法変化
- 金属は温度上昇によって膨張し、設計寸法が変化する可能性があります。
- 例えば、アルミ(A5052, A7075)や銅は熱膨張係数が大きく、精密部品には不向きな場合があるため、クリアランスや取り付け方法を慎重に検討する必要があります。
- 熱膨張を抑えるためには、インバー合金のような低膨張材料を選定することも選択肢のひとつです。
🚫 酸化・腐食の影響
- 高温では金属の酸化が進みやすく、特に鉄系材料はスケール(酸化皮膜)が発生しやすくなります。
- SUS304やSUS310Sなどのステンレス鋼は高温酸化に強く、耐食性に優れるため、高温環境でも使用可能です。
- また、アルミは高温で強度が大幅に低下するため、注意が必要です。
🚫 クリープ(長時間高温荷重による変形)
- 高温で長時間荷重を受けると、金属がゆっくりと変形する「クリープ現象」が発生します。
- クリープとは、荷重が一定であっても時間とともに変形が進む現象であり、最終的に破壊につながることがあります。
- 特に500℃以上の環境では、一般的な鋼材ではなく、耐熱合金(インコネルや、チタン合金など)を使用することが推奨されます。
🚫 摺動部の潤滑性能低下
- 高温環境では潤滑油の粘度低下や蒸発が起こりやすく、摺動部の摩耗が進行しやすくなります。
- 二硫化モリブデン(MoS₂)やセラミックコーティングを施した部品を使用することで、高温下でも摩耗を抑えることが可能です。
🚫 樹脂材料の耐熱性
- プラスチック(POM, MCナイロン, PPなど)は高温環境では軟化し、寸法精度や機械的強度が著しく低下します。
- 高温下で使用する場合は、PEEKやPTFE(テフロン)、PI(ポリイミド)などの耐熱性に優れた樹脂を選定することが重要です。
高温環境における機械的特性の低下と材料選定のポイント
機械設計において、部品や構造物が高温環境にさらされる場合、機械的特性の低下 による問題を考慮する必要があります。特に、材料の強度、耐久性、寸法安定性などが低下することで、設計通りの性能が発揮できなくなることがあります。
例えば、工場の炉やエンジン内部、タービン、排気系統、ボイラー設備など、高温環境下で使用される機械要素には、適切な材料選定が求められます。本記事では、高温環境で発生する問題、影響を受けやすい材料、適切な材料選定のポイントについて詳しく解説します。
高温環境で発生する材料特性の低下
降伏強度・引張強度の低下
材料は高温になると、分子の熱運動が活発になり、原子間の結合が弱まり、降伏強度(変形し始める応力)や引張強度(破断する応力)が低下 します。特に、鉄鋼材料は500℃以上で顕著に強度が低下 し始めます。
📌 例:SS400の引張強さの低下
- 常温(20℃):約400 MPa
- 500℃:約200 MPa(約50%まで低下)
⚠対策
✅ 高温強度が高い合金鋼や耐熱ステンレスを選定する
✅ クリープ(後述)を考慮して許容応力を低く設定する
高温環境における設計の工夫
高温環境では、材料の選定だけでなく、設計の工夫も重要です。
🔹 熱応力を考慮する
→ 高温時の膨張による応力を解析し、応力集中が起きにくい設計にする
🔹 断熱対策を行う
→ 耐熱材(セラミックコーティング、断熱板)を使用する
🔹 適切な接合方法を選択する
→ 高温環境では溶接部が脆化しやすいため、ボルト締結や特殊溶接を検討する
🔹 冷却・通気を考慮する
→ 空冷・水冷システムを導入し、温度上昇を抑える
高温環境では、強度低下、クリープ、酸化、熱膨張 などの問題が発生しやすいため、適切な材料を選定することが重要です。

SUS310S、インコネル、セラミックス などの耐熱性の高い材料を活用し、熱膨張や応力を考慮した設計 を行うことで、安全で長寿命な機械設計を実現できます。
高温環境での材料選定のポイント

✅耐熱性の高い金属(耐熱鋼、耐熱合金)を選定する
✅熱膨張を考慮し、適切なクリアランスを確保する
✅酸化や腐食に強い材料を使用し、必要に応じて表面処理を施す
✅クリープ耐性のある材料を選び、長時間荷重を考慮する
✅摺動部には高温潤滑対応の材料やコーティングを適用する
✅樹脂材料を使用する場合は、耐熱グレードのものを選定する
高温環境における耐熱性材料の選定ポイント

機械設計では、使用環境の温度が材料の選定に大きな影響を与えます。特に高温環境では、材料の強度低下や酸化、熱膨張などの問題が発生するため、適切な耐熱性材料を選定することが重要です。本項では、高温環境での材料選定における耐熱性のある材料の種類と選定ポイントについて解説します。
高温環境に適した耐熱材料
高温環境で使用される代表的な耐熱性材料を以下に示します。
使用温度範囲は参考値になります。実際に使用する際は十分に調査、検証する必要があります。
耐熱鋼(ステンレス鋼・合金鋼)
✅特長
- 高温環境でも機械的強度を維持しやすい
- 耐酸化性に優れる
🔍主な種類と使用温度範囲
材料 | 特長 | 使用温度範囲 |
---|---|---|
SUS310S | 高温酸化に強く、耐熱性に優れる | ~1000℃ |
SUH600 | 高温強度が高く、耐熱ボルトなどに使用 | ~600℃ |
SCM440(合金鋼) | 熱処理性が良く、高温でも強度を維持 | ~500℃ |
耐熱合金(ニッケル合金・コバルト合金)
✅特長
- 1000℃以上の超高温でも使用可能
- クリープ強度や耐酸化性が極めて高い
🔍主な種類と使用温度範囲
材料 | 特長 | 使用温度範囲 |
---|---|---|
インコネル(Inconel 600) | 耐熱性・耐酸化性に優れる | ~1200℃ |
ハステロイ(Hastelloy) | 耐熱・耐酸化・耐食性が非常に高い | ~1100℃ |
モネル(Monel) | 高温耐食性に優れ、海水環境でも使用可能 | ~500℃ |
セラミックス材料
✅特長
- 超高温(1000℃以上)でも形状を維持できる
- 優れた耐摩耗性・耐酸化性
🔍主な種類と使用温度範囲
材料 | 特長 | 使用温度範囲 |
---|---|---|
アルミナ(Al₂O₃) | 高硬度・高耐熱性 | ~1500℃ |
ジルコニア(ZrO₂) | 高強度・耐熱衝撃性が良い | ~1200℃ |
シリコンカーバイド(SiC) | 高温強度・耐酸化性に優れる | ~1600℃ |
耐熱樹脂(高温対応プラスチック)
✅特長
- 軽量でありながら高温でも強度を維持
- 電気絶縁性が高く、電子部品にも使用される
🔍主な種類と使用温度範囲
材料 | 特長 | 使用温度範囲 |
---|---|---|
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン) | 高温強度・耐薬品性が高い | ~250℃ |
PTFE(テフロン) | 低摩擦・耐薬品性に優れる | ~260℃ |
ポリイミド(PI) | プラスチックの中でもトップクラスの耐熱性 | ~400℃ |
高温環境での材料選定のポイント
🔹 耐熱性・高温強度を考慮する
👉 使用温度に応じて、耐熱鋼、ニッケル合金、セラミックスなどを選定する。
🔹 酸化や腐食に強い材料を選ぶ
👉 高温酸化が問題になる場合は、ステンレス鋼や耐熱合金を使用する。
🔹 熱膨張係数を考慮する
👉 精密部品には低膨張材料(インバー合金など)を使用し、クリアランスを適切に設定する。
🔹 クリープ耐性を重視する
👉 長時間高温荷重がかかる部品には、インコネルやハステロイなどの耐熱合金を選定する。
高温環境では、材料の強度低下や酸化、クリープなどの影響を考慮し、適切な耐熱性材料を選定することが不可欠です。耐熱鋼やニッケル合金、セラミックス、耐熱樹脂など、使用条件に応じた適材適所の選定を行うことで、機械の信頼性や耐久性を向上させることができます。

高温環境での設計では、材料特性を十分に理解し、適切な対策を講じることが成功のカギとなります。
まとめ
高温環境では、強度低下や酸化、熱膨張、クリープ現象など、さまざまな要因が材料の性能に影響を及ぼします。適切な材料を選定し、設計段階でこれらの影響を考慮することで、機械の信頼性や耐久性を大きく向上させることができます。高温環境での設計では、材料の特性を十分に理解し、適切な対策を講じることが成功のカギとなります。
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