機械設計において、ねじを選定する際には、さまざまな荷重に耐える強度を確保することが重要です。設計に不適切なねじを使用すると、破損や事故の原因となる可能性があるため、ねじにかかる荷重を正確に計算し、強度に合ったねじを選ぶことが不可欠です。この記事では、ねじ選定時に考慮すべき強度計算について、せん断荷重や引張荷重を中心に解説します。
ねじにかかる主な荷重
機械設計において、ねじにかかる主な荷重には以下のようなものがあります。
引張荷重
ねじを軸方向に引っ張る力
ねじ山のせん断荷重
ねじ山に対して軸方向に作用する力
せん断荷重
ねじの断面に対して横方向に作用する力
これらの荷重がかかる状況に応じて、必要な強度を計算し、ねじを選定する必要があります。
引張荷重に対する強度計算
ねじにかかる引張荷重を計算する際には、ねじの材料強度と断面積を考慮します。引張荷重に耐えられるかどうかは、引張応力と材料の引張強度を比較することで評価します。
引張応力は以下の式で計算されます。
\( \displaystyle σ=F/A\)
- σ:引張応力(N/mm²)
- F:引張荷重(N)
- A:ねじの有効断面積(mm²)
ねじの選定をする際には、ねじの許容応力(降伏荷重/安全率α)が引張荷重より大きくなるよう選定します。
\( \displaystyle \frac{ねじの降伏強度σ×ねじの有効断面積A×ねじの本数} {安全率α}>引張荷重F \)
引張荷重に対するねじの選定方法
それでは実際に条件を設定しねじの選定を行っていきます。
今回は強度区分8.8、安全率を10とし、ねじサイズの選定を行う手順を説明します。
- F:引張荷重 :5000N
- σ:降伏強度 :640N/㎟
- α:安全率 :10
- ねじの本数 :1本
\( \displaystyle \frac{ねじの降伏強度σ×ねじの有効断面積A×ねじの本数} {安全率α}>引張荷重F \)
上記の式へ数値を代入します。
\( \displaystyle \frac{640×ねじの有効断面積A×1} {10}>5000\)
\( \displaystyle 64×ねじの有効断面積A>5000\)
\( \displaystyle ねじの有効断面積A>78.125\)
上記の式よりねじの有効断面はM12以上(84.3㎟)で選定することができます。
上記の式はあくまで理論値です。
実際には様々な荷重要因や部品の精度など複合的に影響します。
不安がある選定では安全率を考慮し最適な設計を心がけましょう。
ねじ山のせん断荷重に対する強度計算
ねじ山のせん断強度は締結寸法0.6dの時にねじの引張強度と同等になるといわれています。
つまり、0.6dより締結寸法が長ければ、ねじ山が破壊される前に引張荷重によりねじが破壊されるということになります。
これは、締結寸法を0.6dより長くしておけば、引張荷重による強度計算だけで破壊のリスクを抑えられるとも考えられます。
締結寸法は可能であれば1.0d程度は確保したいところです。
締結寸法を長くすればねじ山のせん断荷重を気にせずに済みますね。
せん断荷重に対する強度計算
せん断荷重がかかる場合も、ねじの断面積に基づいてせん断応力を計算します。
せん断応力は次の式で計算します。
\( \displaystyle τ=\frac{F} {A}\)
- τ:せん断応力(N/mm²)
- F:せん断荷重(N)
- A:ねじの有効断面積(mm²)
せん断強度は、一般的に材料の引張強度の60%程度とされます。たとえば、S45Cの引張強度が600 MPaの場合、せん断強度はおよそ360 MPaです。
ただし、基本的にはねじ部にせん断荷重がかかるような設計は避けましょう。
通常、ねじにはせん断荷重がかかる使い方は向いていません。
ねじ締結部にせん断荷重がかかってしまう場合には、
ねじ部以外でせん断荷重を受けるような設計をこころがけましょう。
ねじの有効断面積
ねじの呼び | 並目ねじの有効断面積 (㎟) |
M3 | 5.03 |
M4 | 8.78 |
M5 | 14.2 |
M6 | 20.1 |
M8 | 36.6 |
M10 | 58 |
M12 | 84.3 |
M14 | 115 |
M16 | 157 |
M20 | 245 |
M24 | 353 |
M30 | 561 |
ねじの引張強度・降伏強度
強度区分 | 引張強度 | 降伏強度 |
4.8 | 400 N/mm² | 320 N/mm² |
8.8 | 800 N/mm² | 640 N/mm² |
10.9 | 1000 N/mm² | 900 N/mm² |
12.9 | 1200 N/mm² | 1080 N/mm² |
安全率について
引張荷重だけで設計することはリスクがあるため、通常は安全率を加味します。安全率は、設計上での余裕を示す指標であり、破壊を防ぐための保険として機能します。
設計荷重に対してどのくらいの余裕を持たせるかは、使用条件や環境、部品の重要性に依存します。たとえば、安全率が3であれば、ねじの強度には3倍の余裕があるという意味になります。
Unwinの安全率
Unwinの安全率は、特にねじの設計において歴史的に利用されてきた安全率の概念です。イギリスの機械工学者、W. C. Unwinが提案したもので、ねじの安全設計に関する基準として採用されています。Unwinの安全率は、通常の静荷重だけでなく、動的な荷重や衝撃荷重がかかる状況も考慮して設定されます。
材料 | 静荷重 | 繰返し片降り荷重 | 繰返し両振り荷重 | 衝撃荷重 |
鋼 | 3 | 5 | 8 | 12 |
安全率の設定の仕方は業種や会社により異なると思います。
経験や感覚により、最適な安全率で求めましょう。
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