パワーロックは、軸とハブ(歯車、プーリー、カムなど)を接続するための締結要素で、キーやキー溝を必要とせずに高トルクを伝達できるため、精度や強度が求められる設計において広く使用されています。今回は、椿本チェインさんから販売しているKEシリーズ、ASシリーズ、AD-Nシリーズの比較を交えて、パワーロックの選定ポイントについて解説します。
今回はわたしがよく使用している椿本チェインさんから販売しているパワーロックの代表的な3シリーズについての選定ポイントを解説していきます。
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パワーロックの機能と特長
パワーロックは摩擦締結を利用した軸とハブの結合方法で、ボルトを締め付けることにより内外輪が拡張し、摩擦力でトルクを伝達します。この仕組みにより、次のような利点があります。
- 高いトルク伝達能力
キー溝が不要で、軸全体に均一に負荷がかかるため、軸の強度を最大限に引き出せます。 - 高精度の位置決めが可能
軸とハブが摩擦力で結合するため、回転角度や軸方向の位置決めを高精度で行うことができます。 - 組み立てや取り外しが容易
ボルトの締め付けによって簡単に固定・解除が可能で、メンテナンス性に優れています。
パワーロックの選定ポイント
パワーロックを選定する際には、以下の要素を考慮する必要があります。
- トルク伝達能力
- 軸とハブ間で伝達するトルクが選定の基本となります。
- パワーロックは、製品ごとにトルク伝達能力が異なるため、設計時に最大トルクを把握し、それに見合った製品を選定することが重要です。
- 軸径とハブの寸法
- パワーロックの内径と外径は、軸とハブの寸法に合わせて選定する必要があります。
- 内外径が合わない場合、締結がうまくいかず、トルク伝達が不安定になります。
- 許容荷重
- 軸方向の荷重やせん断力、振動などがかかる場合、それに対応できる許容荷重を確認します。
- 負荷条件が厳しい場合は、耐久性や疲労強度が高い製品を選ぶことが求められます。
- 取り付けとメンテナンスの容易さ
- パワーロックは基本的にメンテナンスが容易ですが、製品によって取り付けの難易度やメンテナンスの頻度が異なります。
- メンテナンス性が重要な用途には、取り外しが簡単なものを選定します。
パワーロックのシリーズ 3選
それでは、代表的なパワーロックであるKEシリーズ、ASシリーズ、AD-Nシリーズを比較し、それぞれの特長を見ていきます。
ASシリーズ
- 特徴:
- ASシリーズは、汎用性が高いスタンダートモデルです。
- 軸径はφ19から対応。
- 軸はh8,ボス穴はH8で適用。
- ダブルテーパタイプ
- テーパ角が大きく取り付けやメンテナンスが非常に簡単で、幅広い用途に対応可能です。
- センタリング機能がないのでボスにガイドを設定する必要があります。
- 用途:
- 重負荷をかける用途や、大型の機械に適しています。
- メリット:
- 高トルク伝達能力
- 簡単な取り付けとメンテナンス
- デメリット:
- センタリング機能がない為、ガイドの設定が必要
もっとも一般的なシリーズです。
取り扱いがしやすく、伝達トルクもあり信頼性の高いシリーズです。
センタリング機能がないので、ガイドをつけることを忘れずに。
KEシリーズ
- 特徴:
- KEシリーズは、コンパクトで軽量なデザインが特徴です。小型機器やスペースが限られた場所で使用するのに適しています。
- 比較的広範囲の公差軸に対応しています。(h9,h10にも対応)
- ただし、h9,h10公差軸では10%程度伝達トルクが減少するので注意が必要です。
- 軸径はφ5から対応
- シングルテーパタイプ
- センタリング機能があり、ボス穴にガイド不要。
- 比較的安価であり、コストパフォーマンスに優れています。
- 用途:
- 軽中負荷の用途や、小型機器に適しています。
- メリット:
- 軽量でコンパクトなデザイン
- 広範囲な公差軸に対応
- センタリング機能あり
- デメリット:
- 他のシリーズに比べて伝達トルクが劣る
コンパクトで軸径もφ5から対応している為、小型機器にも適しています。
また、軸公差h10まで対応しているため、ミガキ丸棒(h9)でも使用でき、
コストダウンにもつながります。
(伝達トルクが減少するので、安全率をしっかりとりましょう)
AD-Nシリーズ
- 特徴:
- AD-Nシリーズは、伝達トルクが高く振動や衝撃が加わる環境での使用に適しています。
- 伝達トルクはASシリーズの1.5倍以上
- 安定したトルク伝達を実現し、過酷な環境下でも長期間にわたって信頼性を発揮します。
- 軸径はφ19から対応。
- 軸はh8,ボス穴はH8で適用。
- テーパ角が小さく取り付けや取り外しが他シリーズと比べて慎重に行う必要がある。
- ダブルテーパタイプ
- センタリング機能があり、ボス穴にガイド不要。
- 用途:
- 振動や衝撃がかかる機械や、過酷な環境下での使用に適しています。
- メリット:
- 伝達トルクが高く衝撃や振動に強い
- 長期間安定してトルクを伝達
- デメリット:
- 他のシリーズに比べてコストが高い
- 他のシリーズに比べて取り付け、取り外しを慎重に行う必要あり
非常に高い伝達トルクがあるため、他シリーズで対応できない場合に使用します。
ただし、取り扱いが繊細で慎重に作業する必要があります。
組み立て作業者の理解も非常に重要になります。
パワーロック選定時の注意点
パワーロックを選定する際には、以下の点に注意が必要です。
- 環境条件
- 使用環境(温度、湿度、振動、衝撃など)に応じた選定を行うことが重要です。
- 振動が激しい機械では、AD-Nシリーズのような伝達トルクが高いものが推奨されます。
- 耐食性が必要な環境では無電解ニッケルメッキ仕様やステンレス仕様を使用しましょう。
- 安全率の考慮
- 設計段階で、許容トルクに対する安全率を十分に考慮することが重要です。
- 安全率が低いと、過負荷時にトルクが適切に伝達されないリスクがあります。
- メンテナンス計画
- 長期的に使用する場合は、取り付け・取り外しのしやすさや、メンテナンス頻度にも配慮しましょう。
- 特に頻繁に分解・組立が必要な場合は、簡便なシリーズを選定するのが理想的です。
まとめ
パワーロックは、軸とハブを高精度で締結するための重要な要素です。選定時には、トルク伝達能力や軸・ハブの寸法、許容荷重などを考慮し、用途に合った製品を選ぶことが求められます。KEシリーズ、ASシリーズ、AD-Nシリーズそれぞれに特長があり、機械設計の要件に応じて最適なものを選定しましょう。
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