機械設計において、材料選定は製品の性能・加工性・コストに大きく関わります。
中でもよく使われる「炭素鋼」の中で、S45CとS50Cは非常に使用頻度の高い材料です。
見た目はよく似ている2つですが、細かな違いを理解し、正しく使い分けることで、性能の最適化とトラブル回避につながります。
この記事では、初心者の方にもわかりやすく、S45CとS50Cの違いと使い分けのポイントを解説します。
S45C・S50Cとは?:どちらも機械構造用炭素鋼
S45CやS50Cは、JIS(日本産業規格)で定められた機械構造用炭素鋼鋼材です。
材料名の「S」はSteel(鋼)を、「C」はCarbon(炭素)を示し、数字はおおよその炭素含有量を表しています。
▶ S45C:炭素含有量 約0.45%(中炭素鋼)
▶ S50C:炭素含有量 約0.50%(中炭素鋼)
どちらも切削加工や熱処理が可能で、シャフト・ギア・ボルト・金型部品など幅広い用途に使われています。
S45CとS50Cの基本的な違い
比較項目 | S45C | S50C |
---|---|---|
炭素含有量 | 約0.45% | 約0.50% |
硬さ(焼入れ前) | やや軟らかめ | やや硬め |
焼入れ性 | 中程度 | 高め |
引張強さ(調質後) | 約700 MPa | 約750 MPa |
加工性 | 良好 | やや劣る(硬いため工具摩耗あり) |
溶接性 | 可(ただし前後処理が必要) | やや劣る |
主な用途 | 一般機械部品、シャフト等 | 強度重視の機械部品、金型部品等 |
なぜ強度が違うのか?
この違いの主な要因は「炭素含有量の差」です。
炭素量が多くなると、鋼材は以下のような性質になります。
- 硬くなる(強度UP)
- 焼入れによる硬化性が向上
- 反面、粘り(靱性)が低下
- 加工性・溶接性が低下
つまり、S50Cの方が強くて硬いが、やや扱いにくいという特徴があるのです。
適材適所の使い分けポイント
S45Cが適しているケース
- 強度よりも加工性・コスト・安定性が重要な部品
- 汎用的なシャフト、スプロケット、ボルト
- 焼入れせずに使う一般部品
- 溶接が必要な構造物
📌 理由
S45Cは加工しやすく、工具寿命にも優れ、溶接も比較的行いやすい材料です。
S50Cが適しているケース
- 高強度・耐摩耗性が求められる部品
- 熱処理後の高硬度が必要なギアや金型部品
- 長寿命を期待される可動部
📌 理由
S50Cは焼入れ性が高く、適切な熱処理により表面硬度や耐摩耗性を確保できます。
ただし、焼入れ後は割れやすくなるため、設計や処理には注意が必要です。
加工・熱処理における注意点
S45Cの注意点
🚫 熱処理せずに使う場合は、耐摩耗性に限界がある
🚫 調質材(熱処理済み材)を使う場合は、歪み・硬さのムラを確認
S50Cの注意点
🚫熱処理後に歪みが大きく出ることがある(高炭素材の特徴)
🚫焼き入れ後の加工は工具選定に注意(硬くなるため)
🚫溶接は可能だが、事前・事後の予熱・後熱が推奨される
コスト面での違いは?
両者の価格差は大きくありませんが、以下の点で実質的なコスト差が出る場合があります。
- 加工コスト
- S50Cは工具摩耗が早く、加工コストが若干高くなる
- 熱処理コスト
- S50Cは熱処理で高硬度を出す目的で使うケースが多く、処理費用やリードタイムが発生
設計者は、単純な材料費だけでなく加工性・後工程の負担も含めてコスト判断を行う必要があります。
S○○C鋼材の炭素含有量と特性の傾向とは?
機械設計でよく見かける鋼材「S○○C」。
たとえばS45C、S50Cなど、材料名に含まれる数字が違うと、どんな違いがあるのでしょうか?
実はこの「○○」の数字は炭素含有量(%)の目安を表しており、この数字の大小が材料の強度や加工性に大きな影響を与えます。
本項では、初心者の方にも理解しやすいように、炭素含有量によってどう特性が変わるのかを解説します。
S○○Cとは何か?名前の意味を確認しよう
「S○○C」は、機械構造用炭素鋼鋼材という鋼の種類を示します。
- S = Steel(鋼)
- C = Carbon(炭素)
- 数字(例:45や50)は炭素含有量を意味します
🔍 たとえば
材料名 | 炭素含有量(約) |
---|---|
S15C | 0.15% |
S35C | 0.35% |
S45C | 0.45% |
S50C | 0.50% |
この炭素量の差が、機械的性質を決定づけるポイントなのです。
炭素含有量による特性の傾向
炭素の含有量が多くなると、鋼材の性質は以下のように変化します。
強度(引張強さ・硬さ):上がる
炭素が多くなると、結晶構造が緻密になり、硬くて強い鋼になります。
👉 高炭素鋼は焼入れ性が高く、耐摩耗性にも優れる。
靱性(粘り強さ):下がる
硬くなる反面、衝撃に対する粘りや折れにくさは低下します。
割れやすくなる傾向です。
加工性:悪くなる
硬くなることで切削工具への負担が増え、切削加工・穴あけ・タップなどが難しくなります。
溶接性:悪くなる
炭素量が多いと、溶接後に割れやすくなったり、焼割れが起きるリスクが増します。
用途ごとの炭素量の目安と代表材
炭素含有量 | 特性の傾向 | 主な材料例 | 用途例 |
---|---|---|---|
〜0.25% (低炭素鋼) | 柔らかく加工しやすい 強度は低め | S15C、S20C | 溶接構造体、薄板部品など |
0.25〜0.60% (中炭素鋼) | 強度・加工性のバランスが良い | S45C、S50C | シャフト、ボルト、汎用部品 |
0.60%以上 (高炭素鋼) | 非常に硬く、耐摩耗性が高い 割れやすい | S60C、S65C | 金型部品、工具、ギアなど |
「硬さ」だけで選ぶと危険!使い分けの注意点
炭素量が多い鋼は確かに強いですが、「強ければ良い」というわけではありません。
- 衝撃がかかる部品に硬いだけの材料を使うと、割れて壊れるリスクがあります。
- 加工工程で歪みやすくなるため、寸法精度が出にくくなることもあります。
- 焼入れや焼戻しといった熱処理を行わないと、素材の特性を十分に発揮できない場合もあります。
適材適所が大切!
特性を活かした設計例 |
---|
S15C → 軽加工品、溶接品 |
S45C → 強度が必要なシャフト、ねじ |
S50C以上 → 焼入れ部品、耐摩耗部品 |
炭素量は「強度と加工性のバランス」を決めるカギ
炭素量が多いほど材料は強く、硬くなりますが、その分加工や溶接が難しくなります。
設計者や選定者は、以下のポイントで判断することが重要です。
✅ 強度・耐摩耗性が欲しい → 炭素量多め(S45C〜S55C)
✅ 加工性・溶接性を優先 → 炭素量少なめ(S15C〜S35C)
✅ 熱処理の有無も選定基準の一つ

「適した材料を、適切な場所に使う」
これは設計の基本中の基本です。炭素量の意味を正しく理解して、材料選定に活かしていきましょう。
まとめ:迷ったら、使用条件で選ぶのが基本!
✔ 加工性や溶接性を優先したい → S45C
✔ 高強度・耐摩耗性が必要 → S50C
どちらも機械構造用の標準的な鋼材ですが、用途によって最適な選択は変わります。
熱処理を行うかどうか、加工工程の有無、強度要求などを明確にし、「材料特性 × 使用条件」で判断するのが正しい使い分けです。
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