機械設計や金型設計の現場では、「切削工具」や「金型部品」など、硬くて摩耗しにくい鋼材が求められる場面が多くあります。
そんなときによく名前があがるのが「SKS3」と「SK3」です。
どちらも「硬くて強い」材料ですが、実は成分や特性、用途には明確な違いがあります。
この記事では、初心者でも理解しやすいように、SKS3とSK3の違いと使い分けのポイントをわかりやすく解説していきます!
SK3とは?【炭素工具鋼】
SK3は、炭素含有量が高い工具鋼で、日本工業規格(JIS)では炭素工具鋼の一種に分類されます。
- 主成分
- 鉄+高炭素(約1.0%〜1.1%程度)
- 特徴
- 焼入れによって高い硬さ(HRC60以上)を実現可能
- コストが比較的安い
- 加工性がやや劣る(硬いため)
- 用途例
- 木工用刃物、打ち抜き刃、彫刻刀、のこぎり刃 など
メリット
✅ 安価で手に入りやすい
✅ 高い硬度と耐摩耗性
デメリット
🚫 焼き戻しによる靭性(粘り強さ)にやや難あり
🚫 耐衝撃性や複雑形状には不向き
SKS3とは?【合金工具鋼】
SKS3は、SK3にクロムやタングステンなどの合金元素を加えた合金工具鋼です。
JISでは「合金工具鋼:SKSシリーズ」に分類されます。
- 主成分
- 鉄+炭素(約1.0%)+クロム・タングステンなど
- 特徴
- SK3よりも靭性(粘り強さ)が高く割れにくい
- 耐摩耗性・焼き戻し特性も向上
- 熱処理後の寸法安定性が良い
- 用途例
- プレス金型、打ち抜き型、精密刃物、ゲージ部品
メリット
✅ 高硬度と高靭性のバランスが良い
✅ 破損リスクが低く、安全性が高い
✅ 寸法精度が要求される部品に適している
デメリット
🚫 SK3に比べて価格が高め
🚫 加工時にやや工具摩耗が大きい(硬いため)
SKS3とSK3の比較表
特性 | SK3(炭素工具鋼) | SKS3(合金工具鋼) |
---|---|---|
硬度(焼入れ) | ◎ 非常に高い | ◎ 非常に高い |
靭性(粘り強さ) | △ やや脆い | ○ 比較的強い |
耐摩耗性 | ○ 十分あり | ◎ 高い |
コスト | ◎ 安価 | △ やや高価 |
用途例 | 刃物、木工工具 | 金型、精密部品、プレス工具 |
材料選定のポイント
使用条件・目的 | おすすめ材料 |
---|---|
コスト重視 | SK3 |
高精度な金型、強い衝撃がかかる部品 | SKS3 |
焼入れ後の変形を避けたい | SKS3 |
耐摩耗性を優先したい | SKS3 |
SK3は中途半端な材料?
〜機械設計における材料選定の落とし穴〜
機械設計において材料選定は非常に重要なステップです。中でも「硬さ」と「コスト」のバランスが取れているように見えるSK3(炭素工具鋼)は、手軽に選ばれることが多い材料です。
しかし実際には、「中途半端な材料」として扱われることがあるのをご存知でしょうか?
本項では、なぜSK3が“中途半端”とされるのか、その理由と注意点についてわかりやすく解説します。
なぜ“中途半端”と言われるのか?
靭性が低く、割れやすい
SK3は炭素量が多く、焼入れで高硬度が出せる反面、靭性(粘り強さ)が低く、割れやすいのが弱点です。
強い衝撃や繰り返し荷重に対しては破損しやすく、設計の自由度が制限されてしまう場面も。
寸法安定性が悪く、精密部品に不向き
熱処理後に歪みや寸法変化が起こりやすいため、精密な金型部品やゲージ部品には使いにくいという課題があります。
耐摩耗性もそれなり
焼入れをすればある程度の摩耗には耐えられますが、SKS3やSKD11のような高耐摩耗材料に比べると見劣りするため、長寿命設計には向きません。
コストは安いが、性能差も小さくない
確かにSK3は安価ですが、少しコストをかければより靭性や耐摩耗性に優れたSKS3や合金工具鋼を選べることが多く、結果的にコスパが悪くなる可能性もあります。
SK3を選んでも良いケース
もちろん、SK3が悪い材料というわけではありません。
以下のような条件がはっきりしている場面では有効です。
- コストを最優先したい(大量生産など)
- 加工部品が使い捨てや短寿命品
- 高精度や高靭性を必要としない単純部品
- 試作品など短期使用なもの
迷ったら他材も検討すべき
SK3は「安い・硬い」が特徴の材料ですが、耐久性・精度・安全性の面では不安要素が多く、結果的に中途半端な材料となることも。
設計の目的が曖昧なままSK3を選んでしまうと、後から割れ・摩耗・精度不良といった問題に直面するリスクがあります。
代替候補の例
用途 | おすすめ代替材料 |
---|---|
高精度な金型部品が必要な場合 | SKS3、SKD11 |
高耐摩耗性が求められる場合 | SKD11、SKH51 |
コスト重視+靭性も少し必要 | S50C、S55C |
小型部品や焼入れ不要な部品 | S45C、NAK55 |
材料選定では「価格」だけでなく、使う場面・求める性能・寿命を明確にしておくことが重要です。
SK3は硬さと価格のバランスが取れているようで、実は用途が限定される“中途半端な材料”

靭性・寸法精度・耐摩耗性が求められる場合は、他の材料を検討した方が確実。
SKS3とSKD11の比較検討も重要!
―機械設計での材料選定に迷ったら―
機械設計において、高硬度・高耐摩耗性を求める部品では「SKS3」や「SKD11」といった工具鋼がよく使われます。
しかし、似たように見えるこれらの材料にもはっきりとした違いがあり、適切に選ばないと性能不足やコストオーバーの原因になります。
本項では、SKS3とSKD11の特性の違いと選定時のポイントについて、初心者にもわかりやすく解説します。
SKD11の特徴(冷間ダイス鋼・合金系)
特性 | 内容 |
---|---|
硬さ | HRC60〜62程度(焼入れ後) |
靭性 | SKS3より比較的粘り強い |
耐摩耗性 | 高い(Cr成分が多く、長寿命) |
寸法安定性 | 熱処理による変形が少ない |
加工性 | 硬くて加工が難しい |
コスト | やや高価 |
主な用途例: プレス金型、成形ダイス、シャー刃、長寿命治具など
メリット
✅ 寸法が安定し、精密な金型部品に向いている
✅ 高い耐摩耗性で長寿命化が図れる
デメリット
🚫 加工が大変(工具摩耗も大きい)
🚫 材料費も加工費もコストは高くなりがち
迷ったら「寿命」と「精度」で判断しよう!
✔ SKS3は「加工しやすく安いが、摩耗には弱い」
✔ SKD11は「高性能だが加工が大変で高価」
つまり、「短期使用」「コスト重視」「簡単な加工」であればSKS3を選び、
「高精度」「長寿命」「高負荷環境」ならSKD11が向いています。

材料選定は、設計目的・加工方法・使用環境を明確にした上で、コストと性能のバランスを見極めることが重要です。
まとめ
✔ SK3は炭素工具鋼で、安価かつ高硬度だが、靭性や加工性にやや難あり。
✔ SKS3は合金工具鋼で、靭性・耐摩耗性・寸法安定性に優れ、精密部品や金型向け。
✔ コスト・精度・強度など、用途や要求性能に応じて使い分けることが重要です。
設計での迷いどころである材料選定。SK3とSKS3は似ているようで、性能差は大きいので、製品の目的や使用環境を考慮して、最適な材料を選びましょう!
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