機械設計で高温でも強度が落ちにくい部品を設計する場合、「SKH51(高速度工具鋼)」という材料がよく選ばれます。
名前は聞いたことがあっても、「実際にどんな特性を持っているの?」「いつ使えばいいの?」という疑問を持つ人も多いでしょう。
今回は、初心者の方でもわかりやすく、SKH51の特徴と選定ポイントを解説します。
SKH51とは?
SKH51は「高速度工具鋼」と呼ばれる鋼材の一種で、切削工具や金型に多く使われています。
特に焼き入れによって非常に硬くなり、高温でも硬さを保つのが大きな特徴です。
SKHの具体的な意味
- S = Steel(鋼)
- K = Kougu(工具)
- H = High-speed(高速度)
つまり、高速度で使用される工具用の鋼という意味を持っています。
ハイス鋼とは?
「ハイス鋼(ハイスこう)」というのは、高速度工具鋼の通称で、「High Speed Steel」の略称 HSS(エイチ・エス・エス) を日本語読みしたものです。
「ハイス」は、「High Speed(ハイスピード)」の音が短縮された形ですね。
主な用途
- ドリル、エンドミル、バイトなどの切削工具
- プレス金型やパンチ
- 高速で繰り返し動作する機構部品
SKH51の主な特性
特性 | 内容 |
---|---|
高硬度 | 焼入れ後でHRC63~65と非常に硬い |
耐熱性 | 高温でも硬さを保持(約500℃程度まで) |
耐摩耗性 | 非常に優れる(工具に最適) |
靭性(粘り強さ) | 十分あるが、強い衝撃には注意 |
加工性 | 焼入れ前はある程度加工できるが、硬化後は非常に困難 |
コスト | 一般鋼材に比べると高価 |
SKH51を使うメリット
✅ 摩耗に強く、長寿命!
摩耗する部品の交換頻度を減らせる
✅ 高温でも性能が落ちにくい!
高速回転や摩擦が発生する箇所でも安心
✅ 切削工具と相性が良い!
ドリルやミルの寿命アップ
■ 注意点・デメリット
🚫 コストが高い
SKD11やSKS3などと比べると材料単価が高く、加工費も上がりやすい
🚫 焼入れ後は非常に硬く、再加工が困難
設計段階での寸法確定が重要
🚫 高すぎる性能が“無駄”になることも
低負荷の部品に使うとコストオーバーに
他の材料との比較
材料 | 特徴 | 用途イメージ |
---|---|---|
SKH51 | 高硬度・高耐摩耗・高耐熱 | ドリル・バイト・パンチ部品など |
SKD11 | 高耐摩耗・寸法安定 | プレス金型や耐久部品 |
SKS3 | 中程度の硬さと加工性・安価 | 試作や中負荷の部品に最適 |
こんなときにSKH51を選ぼう!
✅ 高精度・高寿命の工具を作りたい
✅ 摩耗が激しい機構部品に使いたい
✅ 高温になる環境でも使いたい

逆に、「価格を抑えたい」「そこまでの耐摩耗性が不要」という場合は、SKS3やSKD11を検討しましょう。
SKH51は本当に必要?コストと用途から見る適材適所の考え方
機械設計や金型設計をしていると、「SKH51(ハイス鋼)」という高性能な材料に目がいくことがあります。とても硬くて、熱にも強くて、摩耗しにくい――と、まさに“理想の材料”に思えるかもしれません。
ですが、実際の設計現場では、SKH51が選ばれるケースは意外と少ないのです。
その理由は、コストの高さと、そこまでの性能が必要ない場面が多いからです。
SKH51の特徴とその魅力
まず、SKH51の性能について簡単におさらいしましょう。
- 高硬度(焼入れ後HRC60以上)
- 高温でも硬さが落ちにくい(耐熱性◎)
- 摩耗に非常に強い(耐摩耗性◎)
このように、SKH51は主にドリル・タップ・エンドミルといった切削工具に最適な材料です。
つまり、超高負荷・高速回転で使用される用途向けの鋼材です。
でも実際の設計では…
機械部品や金型部品の多くは、そこまでの過酷な条件では使われないことがほとんどです。
たとえば、
- 動かす速度がそれほど速くない
- 温度が常温に近い
- 多少の摩耗は定期メンテナンスで対応できる
こういった条件なら、SKD11(冷間工具鋼)などで十分対応できます。
SKD11との比較:性能 vs コスト
特性 | SKH51(ハイス鋼) | SKD11(冷間工具鋼) |
---|---|---|
硬さ | 非常に高い(HRC60以上) | 非常に高い(HRC60以上) |
耐熱性 | 非常に高い | 高い |
耐摩耗性 | 非常に高い | 高い |
コスト | 高い(非常に高価) | 中程度(実用的) |
加工のしやすさ | 難しい(刃具摩耗しやすい) | やや難しいが現実的 |
上の表からもわかる通り、SKH51は高性能ですが、その分コストが非常に高く、加工性もあまり良くありません。

そのため、よほど特殊な条件でなければ、SKD11で事足りることがほとんどです。
適材適所が材料選定の基本!
設計で大切なのは、「高性能な材料を使うこと」ではなく、その用途に合った材料を適切に選ぶことです。
- もし常温で、そこまでの負荷がかからない部品であれば → SKD11で十分
- 高速切削や高温・高摩耗の条件なら → SKH51の出番
「とりあえずいい材料を使っておこう」という発想では、コストがかさみ、納期や加工性にも悪影響が出ることがあります。
✅ SKH51は非常に高性能な鋼材ですが、非常に高コスト
✅ 実際の設計ではSKD11などで性能的に十分な場面が多い
✅ 材料選定では「必要十分」な性能を見極めることが重要

SKH51を選ぶ前に、「本当にここまでの性能が必要か?」を一度立ち止まって考える。
それが、設計者としての適切な判断力につながります。
まとめ
SKH51は、高硬度・高耐摩耗性・高耐熱性を兼ね備えた非常に優れた工具鋼です。
その分、コストや加工性には注意が必要ですが、性能が求められる部品には非常に有効です。
機械設計においては、「どれだけの強度や耐摩耗性が必要なのか?」を見極めて、適材適所で選ぶことがポイントになります。
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