機械設計では、製品の性能やコスト、加工性を左右する「材料選定」がとても重要です。
なかでも、鉄系材料の代表であるSS400と、
軽量金属であるアルミ合金(特にA5052やA7075)は、
多くの設計者が検討する選択肢です。
「どっちを選べばいいの?」「何が違うの?」と迷う方のために、
この記事ではSS400とアルミ合金の違いと使い分けのポイントを
初心者にもわかりやすく解説します。
SS400と代表的なアルミ合金A5052の基本的な特徴
まずは両者の代表的な性質を簡単に整理しましょう。
| 比較項目 | SS400(鉄) | A5052(アルミ合金) |
|---|---|---|
| 密度 | 約7.86 g/cm³ | 約2.7 g/cm³ |
| 引張強さ | 約400~510 N/㎟ | 約260 N/㎟ |
| 加工性 | 良好 | 良好 |
| 耐食性 | 弱い(表面処理・塗装が必要) | 強い(自然に酸化被膜) |
| コスト | 低い | 高め |
| 熱伝導率 | 約50 W/m・K | 約200 W/m・K |
| 電気伝導性 | 低い | 高い |
「重さ」が最も大きな違い!
一番わかりやすい違いは、重さ(比重)です。
つまり、同じ体積で比較するとアルミは鉄の約1/3の重さしかありません。
軽量化が求められる場合はアルミ合金!
たとえば以下のようなケースでは、アルミが圧倒的に有利です。
強度ではSS400が有利
アルミは軽い分、材料そのものの強度はSS400より劣ります。
特に引張強さではSS400のほうが1.5~2倍ほど高いことが多く、
荷重を受ける構造材としてはSS400の方が安心です。
強度が最優先ならSS400!
たとえば以下のような条件ではSS400が有利です。

ただし、アルミでも「A7075」などの高強度材を選べば
SS400に匹敵する強度を持つことも可能ですが、
価格は大きく上がります。
耐食性:アルミはサビに強い!
SS400は炭素鋼の一種で、空気中の酸素や水分に触れるとすぐにサビます。
そのため、表面に塗装やメッキ、黒染めなどの防錆処理が必要です。
一方、アルミ合金は自然に酸化皮膜が形成されるため、
表面が腐食しにくく、処理なしでも耐食性が高いです。
水回り・屋外・食品機械ならアルミ合金!
耐食性が求められる環境ではアルミが適しています。

ただし、腐食環境ではアルマイト処理をすることをお勧めします。
加工性はどちらも良好だが違いもある
SS400とアルミ合金はどちらも加工性は良い部類ですが、特性に違いがあります。
精密加工や短納期ならアルミが便利!
CNC加工などでは切削スピードが早いアルミが優位です。
コスト面:SS400が断然安い
材料価格は、同じ体積あたりで比べるとSS400の方が圧倒的に安価です。
ただし、アルミは軽いため輸送費が抑えられる、
加工が速く済むといった間接的なコストメリットもあるため、
用途によってはトータルで有利になることもあります。
リードタイムと表面処理の違いにも注意!
SS400はそのままではサビるため、
製作後に塗装やメッキなどの表面処理工程が追加されることが多く、
納期(リードタイム)も長くなりがちです。
アルミ合金は、アルマイト処理などで簡易的に表面保護が可能で、
処理自体も短時間で済みます。
可動部では軽量化がカギ
機械設計において「材料選定」は、装置の性能を大きく左右する重要な判断ポイントです。
中でも、搬送装置やロボットアームなど、
可動部がある機構では“軽さ”が命と言っても過言ではありません。
本項では、代表的な鉄鋼材料であるSS400と、
軽量金属の代表であるアルミ合金を比較しながら、
「なぜ可動部部品ではアルミ合金の採用が有利なのか?」について解説します。
アルミ合金はSS400の約1/3の重さしかなく、非常に軽量です。
重さは搬送能力に直結する
搬送装置は「物を運ぶ」ための装置ですが、
実際には運ぶ“対象物”だけでなく、
装置自身の重さもモーターや駆動部にかかる負荷になります。
たとえばこんなケース
これらがSS400製で重いと、
それを支えるモーターのトルクが増え、速度も落ち、消費電力も増加します。
軽量化で得られるメリット
SS400からアルミ合金へ変更して装置の重量を下げることで、
以下のようなメリットがあります。
モーターの負荷が減る
軽くなれば駆動力が小さくて済むため、小型・省エネモーターに変更可能。
結果として、コスト削減や電力効率の向上が図れます。
加速度が向上する
軽い物体は加減速しやすく、サイクルタイムの短縮が期待できます。
これは生産性の向上に直結します。
装置の磨耗が減る
重量が軽くなることで、ガイドやベアリング、ボールねじなどの負荷が減少。
結果として、装置寿命の延長や保守頻度の低減につながります。
実際の比較事例
ケース:アーム先端治具(300mm×200mm×10mm)
| 材料 | 重さ(概算) |
|---|---|
| SS400 | 約4.7kg |
| A5052 | 約1.6kg |
同じ形状でも、3kg以上の軽量化が可能です。
たった一つの部品でもこの差。
装置全体では10kg、20kg以上の差が出ることも珍しくありません。
アルミ合金でも強度不足にならないの?
確かに、SS400の方が引張強さは高いですが、
搬送装置で使用する部品の多くは「曲げ剛性」や「たわみ」に支配される場合が多く、
板厚を少し厚くする・リブ構造にするなどの工夫で十分対応可能です。
また、A6061やA7075といった強度の高いアルミ合金を選べば、
SS400と同等以上の強度を確保することもできます(ただしコストは上昇)。
アルミ合金でも剛性不足にならないの?
確かに、SS400のヤング率(約200GPa)に比べて、
アルミ合金のヤング率は約70GPaと3分の1程度しかありません。
そのため、同じ板厚・同じ形状で比較すれば、
アルミの方が「たわみやすい」傾向があります。
しかし、実際の搬送装置や機械部品では、
剛性不足を補うための設計手法が数多くあります。
これらの工夫により、アルミでも十分な剛性を確保できます。
ポイントは「アルミ=剛性が弱い」と決めつけず、
必要な剛性を設計でどう確保するかを考えることです。

軽量化や耐食性が求められる機械設計では、
アルミは非常に有効な選択肢となります。
可動部にはアルミ合金が最適な理由
| 比較項目 | SS400 | アルミ合金(A5052など) |
|---|---|---|
| 重量 | 重い | 軽い(1/3以下) |
| モーター負荷 | 大きい | 小さい(省エネ化) |
| 加速度/応答性 | 遅い | 高速 |
| 表面処理・納期 | 処理必須・長め | 簡単・短納期 |
| 強度 | 高い | 材料選定や形状工夫でカバー可能 |
可動部品や搬送装置において、
アルミ合金への切り替えは性能向上と効率化に直結する重要なポイントです。

もちろん、使用環境やコスト要件にもよりますが、
「装置の動きがある」「速度や省エネが大事」という場合は、
まずアルミ化を検討してみるべきだと言えるでしょう。
用途別のおすすめ材料まとめ
| 用途例 | おすすめ材料 | 理由 |
|---|---|---|
| 可動部品、軽量機構 | アルミ合金 | 軽く、加工しやすく、耐食性が高い |
| 高強度が必要な構造材 | SS400 | 安価で強度が高く、安定供給できる |
| 屋外や水回り部品 | アルミ合金 | 錆びにくく、塗装不要 |
| 大型設備の骨組み | SS400 | 材料費が安く、強度が必要 |
まとめ
SS400とアルミ合金は、それぞれに明確な特性とメリットを持つ材料です。
SS400は高い強度と安価な価格から、構造材として幅広く使われていますが、
重くて錆びやすいため、表面処理や防錆対策が必要になります。
一方、アルミ合金は非常に軽く、加工性や耐食性にも優れているため、
可動部や軽量化が求められる装置に最適です。
特に搬送装置やロボットなど、重量が性能に大きく影響する分野では、
アルミ合金への切り替えによる
軽量化が装置の性能向上・省エネ化に大きく貢献します。
設計段階で「何を優先するか」を明確にし、
強度・重量・コスト・納期といった観点から材料選定を行うことが、
信頼性と効率性の高い機械設計につながります。





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