【熱処理可能】SUS440Cの特性と材料選定のポイント【マルテンサイト系ステンレス】

材料選定

SUS440Cはマルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、高硬度耐摩耗性が特徴の材料です。硬化処理を施すことで、他のステンレス鋼よりも高い表面硬度を得ることができ、摩耗しやすい部品や高荷重がかかる用途に適しています。一方で、耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304など)よりも劣ります。

マルテンサイト系ステンレスの概要

マルテンサイト系ステンレス鋼は、鉄-クロム系合金の一種であり、硬化処理が可能なステンレス鋼の分類です。この系統のステンレスは、以下の特徴を持っています。

熱処理による硬化が可能

他のステンレス鋼(オーステナイト系やフェライト系)と異なり、焼入れと焼戻しによって機械的特性を大幅に向上させることができます。この特性により、耐摩耗性や高硬度が求められる用途で重宝されます。

クロム含有量が高い(一般的に12~18%)

クロムが多く含まれるため、耐食性も一定程度確保されています。ただし、オーステナイト系ステンレス(例:SUS304、SUS316)に比べると劣ります。

磁性を有する

マルテンサイト系ステンレス鋼は磁性を持ち、磁力を必要とする用途にも対応可能です。


マルテンサイト系ステンレス鋼は、強度、硬度、耐摩耗性を重視した用途に最適であり、耐食性を必要としつつ、さらに高い機械的特性が求められる場合に使用されます。

SUS440Cの概要

SUS440Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の中でも最高の硬度を持つ材料で、焼入れ後には非常に高い表面硬度と優れた耐摩耗性を発揮します。硬化後の硬度はHRC56〜60に達し、機械設計における耐摩耗性部品として重宝されています。

SUS440Cの主な特性

以下にSUS440Cの主要な特性を示します:

特性具体値備考
硬度(HRC)焼きなまし:28以下
焼入れ、焼戻し:58以上
高硬度で耐摩耗性に優れる
焼入れにより大幅に硬度向上
引張強度(MPa)焼きなまし:758
焼入れ、焼戻し:2,030(温度により変動)
高い機械的強度を持つ
耐食性中程度(耐摩耗性を優先する設計の場合)SUS304やSUS316より劣る
密度(g/cm³)約7.8一般的なステンレス鋼と同等
熱膨張率10.4 × 10⁻⁶ /K(20〜100℃)温度変化の影響を考慮する必要あり
熱伝導率約24.2 W/(m·K)(20℃時)SUS304よりも低い
数値は参考値です。

SUS440Cは、高炭素含有量(0.95~1.20%)と高クロム含有量(16~18%)を特徴とし、硬化後に非常に硬くなることからベアリング、シャフト、ギヤ部品などの用途で広く使用されています。

選定ポイント

用途における硬度と耐摩耗性の要求

SUS440Cは、特に硬度と耐摩耗性を必要とする部品に最適です。以下の用途に向いています。

  • ベアリング部品
  • 精密工具や刃物
  • ギアやシャフト

耐食性の必要性

耐食性が要求される場合、SUS440Cを使用する前に、設計環境をよく検討してください。腐食性の強い環境(海水、強酸・強アルカリなど)では、オーステナイト系ステンレスや耐食処理(PVDコーティング、硬質クロムメッキなど)を組み合わせる必要があります。

熱処理条件

SUS440Cの特性を最大限に引き出すためには、適切な熱処理が重要です。以下の手順を推奨します:

  • 焼入れ温度:950〜1,050℃
  • 焼戻し温度:200〜300℃
    熱処理後には、硬度を測定して適切な仕上がりを確認することが重要です。

加工性の考慮

熱処理後のSUS440Cは非常に硬く、加工が困難になります。そのため、熱処理前に加工を終える設計が一般的です。また、加工中の工具摩耗にも注意が必要です。


SUS440Cを選定する際の注意点

耐食性の限界
  • 耐摩耗性を重視する場合には適していますが、耐食性はSUS304やSUS316に劣ります。
  • 湿気の多い環境や塩害地域では、錆が発生する可能性があるため、防錆処理や表面仕上げが必要です。
コストとのバランス
  • SUS440Cは他のステンレス鋼に比べて高価です。
  • 加工コストもかさむため、用途や性能要求を明確にし、必要以上のスペックを求めないことが重要です。
温度環境

高温環境下では硬度が低下する可能性があるため、温度条件に注意が必要です。

SUS440Cが焼入れ可能な理由

ステンレス鋼は、一般的に耐食性を重視する材料ですが、中でもSUS440Cは焼入れが可能な特性を持ち、高硬度が要求される機械部品や工具などに広く利用されています。本項では、SUS440Cが焼入れ可能である理由と、その背後にある材料特性について解説します。


SUS440Cとは?

SUS440Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼に分類される材料で、以下のような特性を持っています。

  • 耐食性:一般的な炭素鋼に比べ、錆びにくい。
  • 高硬度:熱処理(焼入れ)を施すことで、硬度がHRC58~62に達する。
  • 高い耐摩耗性:硬度が高いため、摺動部や摩耗が発生する用途に適している。

用途としては、軸受け部品刃物バルブ部品などが挙げられます。


SUS440Cが焼入れ可能な理由

炭素含有量が高い

SUS440Cは、炭素含有量が0.95~1.20%と、ステンレス鋼の中では非常に高い値を持っています。この高い炭素含有量が、焼入れによる硬化を可能にする主な要因です。

  • 焼入れ時に、炭素がマルテンサイト構造の形成に寄与し、硬度が向上します。
  • 炭素が多いほど、焼入れ後の硬さが高くなる傾向があります。

クロムの効果

SUS440Cは、16~18%のクロムを含有しています。このクロムが以下の効果を発揮します:

  1. 耐食性の付与:不動態皮膜を形成し、錆びにくくします。
  2. 焼入れ性の向上:クロムが焼入れ可能な温度範囲を広げ、熱処理が容易になります。

マルテンサイト系の性質

SUS440Cはマルテンサイト系ステンレス鋼に分類され、この系統の鋼種は熱処理によって硬化する特徴があります。

  • マルテンサイト系ステンレスは、オーステナイト(高温での結晶構造)から急冷することでマルテンサイト相に変態し、硬度が向上します。
  • 他のステンレス(オーステナイト系やフェライト系)は焼入れ硬化が起きないため、SUS440Cの特性が際立っています。

焼入れの具体的な条件

SUS440Cの焼入れは、以下のプロセスで行われます:

  1. 加熱温度: 1010~1070℃に加熱してオーステナイト化。
  2. 急冷: 油冷または空冷で急冷することで、マルテンサイトを形成。
  3. 焼戻し: 焼戻し温度150-180℃で応力を緩和しつつ、適切な硬さと靭性を調整。

この処理により、硬度HRC58~60が得られます。


他のステンレス鋼との比較

SUS304やSUS316との違い

  • SUS304やSUS316はオーステナイト系であり、焼入れによる硬化が不可能。
  • SUS440Cはマルテンサイト系であり、焼入れによる硬化が可能で、さらに耐摩耗性が向上する。

マルテンサイト系の中での特徴

SUS440Cは、同じマルテンサイト系のSUS420J2などよりも炭素量が多いため、より高硬度が得られる点で優れています。


SUS440Cは、ステンレス鋼でありながら焼入れが可能で、高硬度と耐摩耗性を兼ね備えた特性を持つ点が大きな特徴です。その炭素含有量の高さとマルテンサイト系の特性が、焼入れ硬化を可能にしています。

設計段階では、使用条件に応じて材料を選定し、必要に応じて熱処理プロセスを計画することで、高性能な部品を効率的に製造することができます。


まとめ

SUS440Cは、高硬度耐摩耗性を必要とする機械設計において非常に有用な材料です。ただし、耐食性がやや劣る点や加工難易度の高さを考慮し、適切な表面処理や熱処理を施す必要があります。また、使用環境や性能要件に応じて、他の材料や表面処理の選択肢を検討することが重要です。

用途に応じた適切な選定と設計が、SUS440Cの性能を最大限に活かす鍵となります。


コメント