産業機械や大型設備では、エンジンやモーターの力を
確実かつ安定して伝えるために「多本掛けVベルト」がよく使われます。
これは、複数本のVベルトを並列に掛けて動力を伝える方式で、
単本のVベルトでは不足する高トルク伝達や長時間運転の安定性を実現します。
本記事では、多本掛けVベルトの構造や特徴、メリット・デメリット、
そして選定のポイントを初心者にもわかりやすく解説します。
多本掛けVベルトとは
多本掛けVベルトは、複数本のVベルトを並列に掛けて動力を伝える方式です。
専用の多溝プーリーを使い、
各ベルトが同じ長さ・同じ張力で動作するように設計されます。
単本のVベルトでは不足する
大トルク伝達や安定運転が必要な場面で活躍します。
多本掛けVベルトの構造
多本掛けVベルトのメリット・デメリット

多本掛けVベルトのメリット
多本掛けVベルトのデメリット
多本掛けVベルトの注意点|設計・運用で失敗しないためのポイント

多本掛けVベルトは、高トルク伝達や滑り防止に優れた駆動方式ですが、
設計や運用において注意すべき点も多くあります。
本項では、設計者・技術者が押さえておくべき注意点をわかりやすく解説します。
注意点①:張力の均等化が必須
✅ 対策:張力調整は全本同時に行い、定期的な点検を実施
注意点②:ベルトの種類・長さは完全一致させる
✅ 対策:同一メーカー・同一型番・同一ロットのベルトを使用
Vベルトの「マッチドセット」とは?
マッチドセットとは、複数本のVベルトを同時に使用する際に、
長さ(周長)を揃えたセット品のことです。
特に「多本掛け」で使用する場合、
各ベルトの長さが微妙に異なると張力バランスが崩れ、
以下のような不具合が発生します。
マッチドセットのメリット
実務での注意点
注意点③:プーリー溝の摩耗・精度もチェック
✅ 対策:プーリーの摩耗チェックと、溝寸法の精度確認を定期的に行う
注意点④:交換は必ず全本同時に
✅ 対策:多本掛けベルトは全本同時交換が基本
注意点⑤:過剰な本数は逆効果になることも
✅ 対策:必要トルクに応じた最適本数の選定を行う
多本掛けVベルトは「張力管理」が命
| 注意点 | リスク | 対策 |
|---|---|---|
| 張力不均等 | 摩耗・破断 | 全本同時調整・定期点検 |
| ベルトの不一致 | 空回り・過負荷 | マッチドセットで対応 |
| プーリー摩耗 | 張力バランス崩壊 | 溝精度の確認 |
| 部分交換 | 張力差・破断 | 全本同時交換 |
| 過剰本数 | 効率低下・軸荷重増加 | 適正本数の選定 |
多本掛けVベルトの主な使用例
多本掛けVベルトは、高い動力伝達能力と安定性を必要とする機械でよく使われます。
複数本のVベルトを同時に使うことで、
負荷を分散し、1本あたりの負担を減らすことができるため、
長寿命かつ安定した運転が可能です。
以下に代表的な使用例を紹介します。
大型送風機やコンプレッサー
工場の換気や空調、大規模な製造設備で使用される大型送風機や
コンプレッサーでは、大量の空気やガスを長時間送り続ける必要があります。
多本掛けVベルトを使用する理由
産業用ポンプ
化学プラントや水処理施設などで使われる産業用ポンプは、
大量の液体を送るために大きな回転力が必要です。
多本掛けVベルトの利点
発電機
非常用や産業用の大型発電機では、
エンジンから発電機本体へ安定して動力を伝える必要があります。
多本掛けVベルトの利点
高出力搬送装置
工場の生産ラインや物流システムで使われる
大型コンベアなどは、長時間かつ高負荷で動き続けます。
多本掛けVベルトの利点
大型工作機械
旋盤やフライス盤などの大型工作機械では、
切削や加工時に大きなトルクが必要になります。
多本掛けVベルトの利点
多本掛けVベルトは、
「高トルク」「安定性」「耐久性」が求められる産業機械に最適です。

単本のVベルトでは力不足な場面でも、
複数本を組み合わせることで信頼性の高い動力伝達が可能になります。
選定ポイント
- 必要な動力と負荷条件
高トルクが必要なら多本掛けを検討。 - 回転速度
高速回転では、振動や滑りを抑えるため多本掛けが有利。 - 使用環境
温度や湿度、粉塵の有無に応じて耐熱性・耐久性のあるベルトを選定。 - メンテナンス性
定期点検や交換のしやすさも考慮。 - コストと寿命のバランス
初期コストは高めだが、長寿命化でトータルコストを下げられる可能性あり。
まとめ
多本掛けVベルトは、
高出力機械の安定運転や長寿命化に適した伝動方式です。
「高い動力伝達能力」「静粛性」「寿命延長」といった利点がありますが、
全本同時交換・張力管理・専用プーリーといった運用面の注意も欠かせません。
大きな力を確実に、静かに伝えたい場合には、有力な選択肢のひとつです。



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