機械設計で使うボルトには、大きく分けて「全ねじ」と「半ねじ」があります。見た目は似ていますが、用途や機能性に大きな違いがあるため、選定を間違えると、強度不足・位置ズレ・ゆるみ・破損などのトラブルに繋がる可能性があります。
この記事では、全ねじ・半ねじの基本的な違いから、使い分けのコツ、設計時の注意点まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。
全ねじボルトとは?
全ねじ(ぜんねじ)ボルトとは、ボルトの軸全体にねじ山(スレッド)が刻まれているタイプのボルトです。
全ねじボルトの特徴
- ボルト全長にわたってナットを取り付けられる
- 在庫品としての流通が多く、手に入りやすい
- ナット固定や、貫通穴での締結に適する
全ねじボルトのメリット
✅ 長さ調整がしやすい
✅ ナットでの締結位置を自由に変えられる
✅ 構造がシンプルで、コストも安価な傾向
全ねじボルトのデメリット
🚫 軸全体がねじ山のため、せん断荷重には弱い
🚫 ねじ山同士が材料と接触するため、位置ズレやガタつきが発生しやすい
🚫 ねじ山はストレス集中しやすく、疲労破壊の原因になる
半ねじボルトとは?
半ねじ(はんねじ)ボルトは、軸の一部にのみねじ山が切られているボルトで、ボルト頭側の軸は滑らかな「平滑部」になっています。
半ねじボルトの特徴
- ねじが切られていない部分は、軸として荷重をしっかり受けられる
- 部品との密着性が高く、せん断荷重にも強い
- 軸方向の位置決めがしやすく、精度の高い締結が可能
半ねじボルトのメリット
✅ せん断強度が高く、構造部材の接合に最適
✅ ガタつきが少なく、位置決め性が良い
✅ 曲げや引張りに対して信頼性が高い
半ねじボルトのデメリット
🚫 有効ねじ部が短いため、締結物の厚さに対して選定に注意が必要
🚫 長さの種類が少なく、流通在庫が限定的
🚫 一般的に全ねじより価格が高い
全ねじ vs 半ねじ 比較表
比較項目 | 全ねじ | 半ねじ |
---|---|---|
ねじの範囲 | 軸全体 | 軸の一部 |
貫通穴への使用 | ◎ 向いている | △ 不向き |
せん断強度 | △ 弱い | ◎ 強い |
位置決め精度 | △ ガタつきあり | ◎ 高精度 |
ボルトの価格 | ◎ 安価 | △ やや高価 |
在庫の豊富さ | ◎ 多い | △ 少なめ |
高荷重用途 | △ 応力集中に注意 | ◎ 高荷重に強い |
ナット併用 | ◎ 向いている | ○ 条件付きで可 |
部品同士の密着性 | △ 劣る | ◎ 高い |
設計用途ごとの使い分け
用途・条件 | 推奨ボルト |
---|---|
ナット併用での貫通締結 | 全ねじ |
2部品をしっかり押さえる位置決め締結 | 半ねじ |
フレームなどの構造部材の接合 | 半ねじ |
可変長の治具や試作設計 | 全ねじ |
引張力のみが作用する軽荷重用途 | 全ねじ |
せん断や曲げ荷重が作用する箇所 | 半ねじ(太径を推奨) |
設計時の注意点
全ねじ使用時
- せん断力がかかる部分にねじ部が来ないようにする
- 荷重がかかる場合は、安全率を大きめにとる
- ナットのねじ掛かり長さ(2~2.5D以上)を確保する
半ねじ使用時
- ねじの有効長さが足りているか注意
- 例:板厚20mmに半ねじを使うなら、ねじ部長さが20mm以上必要
- 軸部が材料穴としっかり密着するように穴径の公差設定を見直す
- 強度設計時は、せん断・引張両方の応力をチェック
半ねじボルトのねじ部長さの目安とは?
ボルトを使った締結設計では、「全ねじ」か「半ねじ」かを選定することがあります。中でも半ねじ(半ネジボルト)は、位置決め性やせん断強度を意識した設計に用いられることが多く、ねじ部の長さが非常に重要になります。
なぜ「ねじ部の長さ」が重要なのか?
ねじ部が長すぎると…
- ボルトのせん断強度が下がる(ねじ山がせん断されやすい)
ねじ部が短すぎると…
- 十分に締結できない
- ナットが途中までしか入らず、緩みやすい
このため、必要最小限のねじ長さを確保しつつ、軸部でしっかりガイド・荷重支持をするという設計バランスが大切です。
ねじ部長さの目安(実務的な基準)
半ねじボルトを選ぶ際、ねじ部の長さは以下を目安に設計されることが多いです。
基本の目安(ISOやJIS規格を基にした実務値)
呼び径 | ねじ部長さの目安(mm) |
---|---|
M6 | 約18mm前後 |
M8 | 約22mm前後 |
M10 | 約26mm前後 |
M12 | 約30mm前後 |
M16 | 約38mm前後 |
※これらは市販の半ねじボルト(六角ボルトやキャップボルト)の標準的な寸法に基づくもので、ミスミやJIS B1180などを参考にしています。
設計時の考え方|「ねじ込み長さ」と「軸長」のバランス
ねじ込み長さの基準
- 鋼材同士の締結:ボルト径の 1〜1.5倍
- アルミ材などの低強度材との締結:ボルト径の 2倍以上
🔍 例:M10ボルト → 鋼材なら10〜15mmのねじ込みが必要
🔧 これを確保するために「ねじ部長さ」は 少なくともその分 + α が必要です。
ボルト購入時の注意点
市販の半ねじボルトには、メーカーや規格によって「ねじ部長さ」が異なることがあります。
以下のような工夫が必要です。
- 📏 寸法図を確認してから購入する
- 🛠️ ミスミなどのパーツメーカーでねじ部長さを指定する
- 🧑🏭 必要に応じてねじ切り加工を依頼する(または逆にカット)
項目 | 内容 |
---|---|
半ねじとは? | 軸の一部にのみねじが切られたボルト |
目的 | 締結力と位置決め・せん断強度を両立 |
ねじ部長さの目安 | M6:約18mm、M10:約26mm など |
設計のポイント | ねじ込み長さと軸長のバランス |
選定の注意点 | 規格確認+用途に応じた寸法指定 |
半ねじボルトは、「精度と強度のバランスを取る」ための実用的な選択肢です。

安易に全ねじを使うのではなく、部品同士の関係性と荷重条件に合わせた選定を心がけましょう!
精密な位置決めには「ストリッパーボルト」を活用
精密な位置決めや、高精度な繰り返し位置の再現性が求められる場面では、「ストリッパーボルト」の活用が非常に効果的です。
一般的なボルトと構造が異なり、締結と位置決めの両立ができるため、金型・治具・精密機構の設計において重宝されます。
ストリッパーボルトとは?
ストリッパーボルトとは、先端に段付きのガイド部(軸部)を持ち、一部だけにねじが切られている特殊なボルトです。主に金型や治具で使われる、「位置決め兼締結用の高精度ボルト」と理解するとよいでしょう。
ストリッパーボルトの構造と特徴
部位 | 概要 |
---|---|
軸部(ガイド部) | 精密な外径(H7相当など)で、穴とのすきまを最小限にし、位置決め機能を果たす。 |
ねじ部 | 通常のボルトのように締結力を発揮する。 |
肩部(段差) | 部品との接触面。座面として荷重を受ける。 |
図面上では、段付きシャフトとねじを組み合わせたような形状をしています。
まとめ
全ねじは「調整・汎用性重視」、半ねじは「強度・精度重視」
正しく使い分ければ、設計の安全性・信頼性がグッと高まります。ボルトの選定は一見地味ですが、構造設計の要とも言える重要ポイント。強度計算、安全率の設定、取り付け精度などと合わせて、ぜひ適切なボルト選定を意識しましょう。
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