なぜステンレス鋼(SUS304)は磁石にくっつかないの?~見た目は鉄っぽいのに不思議な金属の話~

材料選定

金属といえば「磁石にくっつく」というイメージを持つ方が多いと思います。
ところが、ステンレス鋼(SUS304)に磁石を当てても「全然くっつかない!」ということがあります。

「ステンレスって鉄でできてるんじゃないの?」
「どうして磁石がくっつかないの?」
そんな疑問に、機械設計の視点からわかりやすく答えていきます。


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SUS304ってどんな金属?

SUS304は、「オーステナイト系ステンレス鋼」と呼ばれる種類の金属です。

✅ 主な成分は「鉄」+「クロム(Cr)」+「ニッケル(Ni)」
✅ 錆びにくく、耐食性が高いので、台所用品・建材・機械部品まで幅広く使われています。


鉄なのになぜ磁石にくっつかない?


実は、「鉄でできている=磁石にくっつく」とは限りません。
磁石につくかどうかは、「結晶構造(結晶の並び方)」によって決まります。

鉄は「フェライト」だと磁性を持つ

普通の鉄(Fe)は「フェライト構造」を持っていて、強い磁性を持ちます。
つまり磁石にしっかりくっつきます。

SUS304は「オーステナイト」だから非磁性

SUS304は、ニッケルを多く含むことで「オーステナイト構造」に変化しています。
このオーステナイトは磁性を持たない結晶構造なので、磁石にくっつかないのです。


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なぜオーステナイト構造は磁石にくっつかないの?

結論から言うと、オーステナイト構造は「原子の並び方(結晶構造)」の違いによって磁性を持たないのです。

まず、金属の磁性はどこからくるの?

金属が磁石にくっつく理由は、「鉄の原子がもつ磁力(スピン)」が整列するためです。

  • 磁力を持つ原子が
  • 同じ向きにそろう(=磁区ができる)と
  • 磁石に引き寄せられる「磁性」が生まれます。

このような性質を「強磁性(きょうじせい)」と呼びます。
普通の鉄やSUS430(フェライト系ステンレス)はこのタイプです。


オーステナイト構造は「スピンがそろわない」

SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスは、鉄の結晶構造が「面心立方格子(FCC構造)」という並び方になっています。

この構造になると…

  • 原子間の距離や配置の関係で
  • 電子のスピンがバラバラの方向を向いてしまい
  • 磁力が打ち消し合ってしまう

つまり、「全体として磁性を持たない=磁石にくっつかない」というわけです。


なぜSUS304はオーステナイト構造になるの?

SUS304にはニッケルが多く含まれており、これが鉄の結晶構造をオーステナイトに安定化させる働きをしています。

✅ 通常、鉄は冷えるとフェライト(磁性あり)になる性質がありますが
✅ ニッケルが多いと、冷えてもオーステナイト構造のまま保たれる
✅ 結果として、常温でも非磁性のまま

はじめ
はじめ

これが、SUS304が磁石にくっつかない最大の理由です。


オーステナイトは「磁石にくっつかない結晶構造」

  • SUS304はニッケルの働きで「オーステナイト構造」を保っている
  • オーステナイト構造はスピンが整列せず、磁力が発生しない
  • そのため、磁石にくっつかない=非磁性となる

このように、磁性の有無は成分だけでなく「結晶構造」でも決まるというのがポイントです。

はじめ
はじめ

設計では「ステンレスだから非磁性」と思い込まず、構造の違い=フェライト系 or オーステナイト系をしっかり見分けることが重要です。

加工すると磁石につくこともある?

実は、SUS304でも加工の仕方によっては磁石にくっつくようになることがあります。

  • 強い曲げ加工冷間加工をすると、一部が「マルテンサイト化」して磁性を帯びます。
  • そのため、見た目は同じSUS304でも「新品の板はつかないけど、曲げた端だけ磁石につく」ということもあります。

これは構造が部分的に変わったためで、素材の性質が劣化したわけではありません


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他のステンレスは磁石にくっつくの?

はい、ステンレスでも種類によって磁石にくっつくものがあります。

種類名称磁石にくっつく?
SUS304,SUS316,SUS303オーステナイト系❌ つかない
SUS430フェライト系✅ くっつく
SUS440Cマルテンサイト系✅ くっつく

ステンレスすべてが非磁性というわけではありません。
ニッケルの含有量と結晶構造の違いがカギです。


設計における注意点

磁性の有無は、以下のような場面で重要になります。

  • 磁気センサーや磁場に影響を受ける部品では、非磁性のSUS304が適しています。
  • 一方で、マグネット式の固定具などにはSUS430など磁性のある材質が必要です。

材料選定の際には、「ステンレス」とひとまとめにせず、磁性の有無もチェックするのが設計のコツです。


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非磁性なら「非金属」も検討してみよう!

金属は多くが磁石に反応する性質を持っていますが、非金属材料は基本的に磁石にくっつきません

非金属材料の代表例

材料名特徴主な用途
樹脂(エンプラなど)軽量・加工性良好・絶縁性ありカバー、ギア、スライド部品
セラミックス高硬度・耐摩耗・耐熱性絶縁部品、高温部品
ゴム・シリコン柔軟性・密封性パッキン、吸振材
カーボン・CFRP軽量・高剛性ロボットアーム、治具、構造材

これらの材料は磁石にまったく反応しない非磁性材料であり、用途によっては金属以上のメリットを発揮します。

まとめ:SUS304が磁石にくっつかない理由

✔ SUS304はオーステナイト構造であり、磁性を持たない
✔ 同じ「鉄ベースの金属」でも、結晶構造の違いで磁石への反応が変わる
✔ 加工により部分的に磁性を帯びることもある
✔ ステンレスの種類によって磁石にくっつくかどうかが変わるため、用途に応じた選定が重要

見た目は同じでも、ステンレス鋼の中身は奥が深い!
「磁石につく・つかない」も、材料選定の重要な判断基準のひとつです。
現場でのトラブルやミスを防ぐためにも、材料の性質を知って使い分ける力を身につけましょう!


はじめ
はじめ

設計において欠かせない材料の特性や用途を解説しています。
適材適所の選定をサポートします。

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