機械設計の図面でよく目にする材料といえば SS400。
ブラケット、フレーム、架台、ベースプレートなど、
機械設計をしていると「とりあえずSS400」と
指定した経験がある人も多いのではないでしょうか。
ですが少し視点を変えてみてください。
図面に書かれた「SS400」という材料は、実は
▶ 数億年前にできた鉄鉱石
▶ 人類5000年以上の製鉄の歴史
▶ 巨大な現代製鉄設備
こうした長いストーリーを経て、
私たちの手元に届いています。
この記事では
SS400が鉄鉱石から鋼材になり、
私たちの元に届くまでの工程を、
製鉄の歴史も交えながらわかりやすく解説します。
材料の背景を知ると、普段の設計が少し面白く見えてくるはずです。
人類と鉄の歴史は5000年以上
まず少しだけ歴史の話をしましょう。
人類が鉄を使い始めたのは約紀元前3000年頃と言われています。
最初に使われた鉄は、実は地球の鉄ではなく
隕石の鉄でした。
隕石鉄は
- ニッケルを含む
- とても硬い
- 希少
だったため、古代では王族の装飾品として使われていたそうです。
その後、人類はついに
鉄鉱石から鉄を取り出す技術
を発明します。
これがいわゆる製鉄です。
日本の製鉄と「たたら製鉄」
日本でも古くから鉄が作られていました。
有名なのがたたら製鉄です。
これは
- 砂鉄
- 木炭
を使って鉄を作る方法で、日本刀の材料もこの方法で作られていました。
ただし、たたら製鉄には問題があります。
現代のような機械産業を支えるには全く足りません。
そこで登場したのが近代製鉄です。
現代の鉄は巨大工場で作られている
現在の鉄は製鉄所という巨大な工場で作られています。
製鉄所の敷地は
東京ドーム100個分以上
なんてことも珍しくありません。
SS400もこうした巨大設備の中で生まれます。
ではここから、SS400が生まれるまでの工程を見ていきましょう。
① 鉄鉱石の採掘(すべての始まり)
鉄の原料は鉄鉱石です。
主な産出国は
日本は鉄鉱石をほぼ100%輸入しています。
巨大な鉱山で採掘された鉄鉱石は、
砕かれて大型貨物船で日本へ運ばれます。
この時点ではまだただの赤い石です。
ここから鉄に変わっていきます。
② 高炉で銑鉄を作る
鉄鉱石はそのままでは鉄になりません。
そこで登場するのが高炉(こうろ)です。
高炉とは高さ約100mにもなる巨大な炉です。
ここに
- 鉄鉱石
- 石炭
- 石灰石
を入れ、約2000℃で反応させます。
すると下から溶けた鉄が出てきます。
これを銑鉄(せんてつ)と呼びます。
ですが、この銑鉄は
ため、まだ材料として使えません。
③ 転炉で鋼にする(SS400の元になる)
次の工程が製鋼です。
ここでは転炉という設備を使います。
溶けた銑鉄に酸素を吹き込むことで
- 炭素
- 不純物
を取り除きます。
この工程で鋼(Steel)になります。
ここで成分を調整することで
など様々な鋼材が作られます。
SS400は比較的シンプルな成分の鋼です。
④ 連続鋳造(鋼を固める)
液体の鋼は次に連続鋳造
という工程に進みます。
ここでは鋼を冷やして固めます。
作られるのは
- スラブ(板用素材)
- ビレット(棒用素材)
と呼ばれる鋼の塊です。
サイズは数十トンにもなります。
まだこの段階では巨大な鉄の塊です。
⑤ 圧延(鋼材の形にする)
次に圧延工程です。
加熱された鋼をローラーで押し潰しながら伸ばしていきます。
ここで
などの形になります。
SS400の多くは熱間圧延鋼材として作られます。
ここでようやく、私たちが見慣れた
鋼材の形になります。
⑥ 鋼材センターへ出荷
製鉄所で作られた鋼材は
- 商社
- 鋼材センター
- 材料問屋
へ送られます。
鋼材センターでは
- 切断
- 在庫管理
- 小ロット販売
などが行われます。
設計者が材料を注文すると、
たいていここから出荷されます。
⑦ 加工メーカーで部品になる
鋼材は次に
- 機械加工メーカー
- 板金メーカー
- 製缶メーカー
へ納入されます。
ここで
- 切削
- 溶接
- 穴あけ
- 曲げ
などの加工が行われます。
そしてついに機械部品として完成します。
私たちが設計した装置に組み込まれるわけです。
鉄を使う前、人類は何を使っていたのか?
今では当たり前のように使われている鉄ですが、
人類の歴史の中で鉄の利用は実はそれほど古くありません。
鉄が普及する前、人々は別の材料を使って道具や武器を作っていました。
ここでは少し歴史をさかのぼり、
鉄が登場する前に人類が使っていた材料を見ていきましょう。
機械設計とは少し離れますが、材料の進化を知るととても面白いですよ。
石器時代|最初の材料は「石」
人類が最初に使った道具の材料は、もちろん石です。
これがいわゆる石器時代です。
石は自然の中で手に入り、割ると鋭い刃ができるため、
- ナイフ
- 矢じり
- 斧
- スクレーパー(削る道具)
などが作られていました。
代表的な材料は
- 黒曜石
- 火打石
- チャート
などです。
特に黒曜石は非常に鋭い刃が作れるため、古代ではかなり重要な材料でした。
ただし石には大きな弱点があります。
つまり機械や複雑な道具には向かない材料でした。
青銅器時代|金属の時代が始まる
次に登場したのが青銅(ブロンズ)です。
青銅とは銅 + スズの合金です。
青銅は石と比べて
という特徴があります。
この時代になると
- 剣
- 槍
- 斧
- 鍋
- 装飾品
など、さまざまな金属製品が作られるようになりました。
ただし青銅にも弱点があります。
それは強度がそれほど高くないことです。
さらにもう一つの問題があります。
スズが貴重だったのです。
スズの産地は限られており、古代では長距離の交易が必要でした。
そして登場した「鉄」
その後、人類はついに
鉄鉱石から鉄を取り出す技術を発明します。
これが鉄器時代の始まりです。
鉄は青銅と比べて
という特徴があります。
その結果、人類の道具は一気に進化しました。
例えば
- 鉄の剣
- 鉄の農具
- 鉄の工具
などが広まり、農業や戦争の技術が大きく発展します。
現代の鉄はさらに進化している
そして現代では鉄はさらに進化し、
など多くの種類があります。
その中でもSS400は
という理由から、最も身近な鉄材料のひとつとして使われています。
つまりSS400は、石 → 青銅 → 鉄
という人類の材料進化の最前線にある材料とも言えるのです。
設計者が知っておきたいSS400の注意点
SS400を使う際にはいくつか注意点があります。
錆びやすい
SS400は普通鋼なので
防錆処理が必須です。
よく使われるのは
- 塗装
- メッキ
- 黒皮
などです。
材料証明が必要な場合がある
装置によってはミルシート(材料証明書)が必要になります。
これは
- 化学成分
- 強度
- 製造ロット
を証明する書類です。
板厚の種類は限られる
鋼材は圧延で作られるため
板厚のバリエーションは規格化されています。
設計時には流通している板厚を意識するとコストを下げられます。
まとめ|SS400は人類の技術の結晶
普段図面で何気なく書いている
SS400
という材料ですが、その背景には
▶ 数億年前にできた鉄鉱石
▶ 人類5000年の製鉄技術
▶ 巨大な現代製鉄設備
があります。
そして次のような工程を経て作られています。
1.鉄鉱石の採掘
2.高炉で銑鉄を作る
3.転炉で鋼にする
4.連続鋳造
5.圧延
6.鋼材流通
7.機械加工
つまり、私たちが図面で指定するSS400という材料は、
世界規模の製鉄産業の上に成り立っている材料なのです。
次に図面で「SS400」と書くとき、
ぜひその背景にある壮大な製鉄のストーリーを少し思い出してみてください。
きっと材料を見る目が少し変わるはずです。




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