SPCCは、冷間圧延鋼板の一種であり、機械設計において広く使用される材料のひとつです。
特に薄板での使用が多く、寸法精度や表面仕上げに優れているため、板金加工やプレス加工に適しており、家電・自動車・機械部品など、さまざまな産業で活用されています。
一方、SPHCは熱間圧延鋼板で、SPCCよりも厚みのある材料や強度が求められる用途に向いています。
表面はやや粗く、寸法精度は劣りますが、加工性が高く、溶接や曲げ加工にも強いため、構造材やフレーム部品などに多く使われています。
この記事では、SPCCとSPHCの特性やその使用上の注意点について詳しく解説します。
SPCCとSPHCの主な板厚規格
代表的なSPCCの板厚
板厚(mm) |
0.8 |
1.0 |
1.2 |
1.6 |
2.0 |
2.3 |
3.2 |
代表的なSPHCの板厚
板厚(mm) |
1.2 |
1.6 |
2.3 |
3.2 |
4.5 |
6.0 |
9.0 |
SPCCとSPHCの価格について
なぜ設計者は「材料の価格感」を知っておくべきなの?
コスト意識がある設計は信頼される
機械設計において「材料の選定」は製品コストに大きな影響を与える重要な工程です。
その中で、材料ごとの「価格感覚」を身につけることは非常に大切です。
特に、「似たような見た目や特性の材料でも、価格は大きく異なる」という事実を知らないと、
コストオーバーや設計変更の手戻りにつながります。
材料価格の一例
金属材料切り売り専門サイト「横山テクノ」によると、下記のような価格が掲載されています。
材質 | 価格(税別) | 特徴 |
---|---|---|
SPCC-SD(ダル仕上げ) | 510円/kg | 表面光沢あり・寸法精度が高い |
SPHC-P(酸洗い) | 480円/kg | コスト重視・加工性に優れる |
SUS304 2B | 1,900円/kg | 耐食性◎・高価 |
📌 表面仕上げが必要な部品 → SPCC、強度・コスト重視の部品 → SPHC が基本の考え方です。

SPCCやSPHCは、SUS304(2B仕上げ)と比較して
およそ「1/3ー1/4の価格」で手に入ります。
なぜ「価格感」が重要なのか?
たとえば…
➤装置フレーム部品に SUS304を選定していたが、実はSPHCで十分だった
👉 数万円単位のコスト差に
➤精度がそこまで必要でない部品に SPCCを選定してコストが無駄に
👉 再設計・発注ミスの原因に
つまり、「材料価格をざっくり把握しているかどうか」で設計の判断精度が大きく変わるのです。
設計者が覚えておきたい価格感(ざっくり目安)
材質 | おおよその価格帯(2025年時点) |
---|---|
SPHC | 約 480円/kg |
SPCC | 約 510円/kg |
SUS304(2B) | 約 1,900円/kg |

材料の価格は時期や取扱業者によって変動しますが、
この3つの価格差を体感で把握しておくことが重要です。
✅ 「精度・強度・見た目・価格」のバランスが重要!
✅ SPCC・SPHCは、SUS304と比べて1/3-4程度の価格
✅ 用途に応じて材質を見極めれば、大幅なコストダウンが可能
✅ 設計初期段階から材料の価格感を意識することで、無駄のない部品設計ができる
SPCCの特性
優れた加工性
- SPCCは冷間圧延されているため、表面の仕上がりが非常に良好で、寸法精度も高くなっています。
- 加工硬化を起こしにくいため、曲げや絞りといった板金加工にも向いています。
- 精密さが求められる製品や、複雑な形状の部品に適しています。
コスト効率
- 冷間圧延鋼板の中でも、SPCCは比較的安価です。
- 大量生産が可能なため、コストパフォーマンスに優れています。
- 製造工程においても、SPCCの扱いやすさは加工時間を短縮し、コストを抑えることに貢献します。
- コスト削減が求められる部品に多く採用されています。
強度と柔軟性のバランス
- SPCCは、引張強度や延性においてバランスが取れており、一般的な使用環境下で十分な強度を発揮します。
- プレス加工などで形状を維持しつつ、破損やひび割れのリスクを最小限に抑えることができます。
表面処理への適性
- SPCCは、塗装やメッキなどの表面処理との相性が良く、防錆効果を高めたり、外観を向上させたりするための追加処理が容易です。
- SPCCは表面が平滑であるため、メッキや塗装が均一に施され、仕上がりが美しくなります。
SPCCの選定ポイント
✅使用環境
- SPCCは、耐腐食性は高くありません。
- 腐食性のある環境で使用する場合は、メッキや塗装などの防錆処理が不可欠です。
- 湿気や水分にさらされる環境では、SPCCの耐久性を確保するために、適切な防錆措置が重要です。
✅寸法精度
- 冷間圧延のプロセスにより、SPCCは高い寸法精度を持ちます。
- 精密な寸法管理が必要な製品や、特定の公差が求められる部品にも適しています。
✅薄板としての用途
- SPCCは、特に薄板の形状で供給されることが多いです。
- 軽量化が必要な部品や、限られたスペースに収める必要がある構造に最適です。
- 機械部品のカバーなどで幅広く使用されています。
🚫加工時の注意点
- SPCCは加工しやすい一方で、応力集中による割れが発生することもあります。
- 特に、急激な曲げや強い圧力を加える際には、加工条件に注意が必要です。
- 事前に曲げ加工や絞り加工の試験を行い、適切な工具や加工方法を選択することが重要です。

SPCCは、薄板加工に適した、汎用性の高い鋼材です。 安価で加工性も良く、安全カバーやセンサーブラケットなど用途は多岐にあります。
SPCCとSPHCの違いについて
冷間圧延鋼板のSPCCと熱間圧延鋼板のSPHCは、一般的によく使用される材料であり、それぞれ異なる特徴や用途を持っています。
SPCCとSPHCの違いを明確にし、材料選定の際の参考にできる情報を提供します。
SPCCとSPHCの概要
SPCC(Steel Plate Cold Commercial)
- 規格:JIS G 3141
- 分類:冷間圧延鋼板
✅特徴
- 表面が滑らかで、寸法精度が高い。
- 強度が高く、成形性や加工性が良好。
- 表面処理(メッキ、塗装など)が施しやすい。
SPHC(Steel Plate Hot Commercial)
- 規格:JIS G 3131
- 分類:熱間圧延鋼板
✅特徴
- 厚みのばらつきがあるものの、大型部品の加工に適している。
- 表面にスケール(酸化皮膜)があり、仕上げ精度はSPCCに劣る。
- 加熱加工により柔らかく、曲げ加工や溶接が容易。
冷間圧延と熱間圧延の違い
特徴 | SPCC(冷間圧延) | SPHC(熱間圧延) |
---|---|---|
製造方法 | 常温で圧延し、寸法精度を向上。 | 高温で圧延し、大きな変形が可能。 |
表面仕上げ | 滑らかで光沢があり、美観に優れる。 | 表面にスケールが付き、仕上がりは粗い。 |
寸法精度 | 高い。 | 比較的低いが、後工程で調整可能。 |
加工性 | 高硬度で加工硬化が進むが、 薄板の成形に優れる。 | 柔らかく厚物の加工や溶接に適している。 |
用途 | 高精度、高品質が求められる部品。 | 強度が重視される大型構造物や部品。 |
SPCCとSPHCの選定ポイント
✅SPCCを選ぶべき場合
- 寸法精度が求められる部品や構造。
- 表面の滑らかさが必要な製品(塗装、メッキ仕上げなど)。
- 精密加工が必要な用途。
✅SPHCを選ぶべき場合
- 大型で厚みのある構造物や部品。
- 強度や剛性を重視する用途。
- 溶接性や曲げ加工が求められる場合。
加工上の注意点
🔍SPCCの加工
- 加工硬化が進むため、複雑な加工には適切な設計が必要。
- 表面の傷つきを防ぐため、加工時には表面保護が推奨される。
🔍SPHCの加工
- 表面のスケールを取り除くために酸洗いや研磨が必要な場合がある。
- 溶接時の熱影響で形状が変わりやすいため、歪み取り対策が重要。
SPCCとSPHCの比較表
項目 | SPCC(冷間圧延鋼板) | SPHC(熱間圧延鋼板) |
---|---|---|
寸法精度 | 高い | 比較的低い |
表面仕上げ | 滑らかで美しい | スケールが付き粗い |
加工硬化 | 発生しやすい | 発生しにくい |
成形性 | 良好(薄板向け) | 良好(厚板向け) |
価格 | 高め | 安価 |
用途 | 家電、自動車部品、建材 | 橋梁、機械部品、構造材 |
SPCCとSPHCの違いについて
SPCCとSPHCは、それぞれ異なる製造方法と特性を持つため、用途に応じた適切な選定が重要です。SPCCは精密性や表面仕上げが求められる用途に適しており、小型部品や高品質な製品の製造に最適です。一方、SPHCはコストパフォーマンスが高く、大型構造物や強度を重視する用途に適しています。

機械設計において、両者の特性を正しく理解し、適切な材料選定を行うことで、製品の性能や品質を最大限に引き出すことができます。
SPCCとSS400の違いと使い分けをわかりやすく解説!
機械設計や製造の現場でよく耳にする「SPCC」と「SS400」。どちらも鉄系の材料ですが、それぞれに特徴や得意分野があり、使い分けがとても重要です。
本項では、SPCCとSS400の違い、選定のポイント、注意点について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
SPCCとSS400の基本的な違いとは?
まずは、2つの材料の定義を見てみましょう。
項目 | SPCC | SS400 |
---|---|---|
種類 | 冷間圧延鋼板(Cold Rolled) | 一般構造用圧延鋼材(熱間圧延) |
主な形状 | 薄板(0.8~3.2mm) | 厚板・形鋼・フラットバーなど |
表面 | 滑らかで美麗 | スケール(黒皮)あり、またはミガキ材 |
主な用途 | 電気製品の外装、プレス部品など | 機械フレーム、架台、溶接構造物など |

簡単に言えば、SPCCは「見た目がキレイな薄板」
SS400は「構造に使う頑丈な鋼材」です。
SPCCとSS400の特性の違い
加工性(曲げ・プレス)
- SPCCは冷間圧延によって仕上げられており、表面が滑らかで寸法精度も高い。
- プレス加工や折り曲げ加工に非常に向いています。
- SS400は熱間圧延で表面にスケール(酸化膜)があり、加工前に取り除く必要があります。
- また、厚みがあるため、プレス加工にはあまり向いていません。
表面の美しさ
- SPCCは光沢があり、塗装やメッキの前処理がしやすい。
- SS400はスケールが付いており、塗装前にショットブラストやグラインダー処理が必要。
板厚と形状のラインナップ
- SPCCは主に0.8mm~3.2mmの薄板専用。
- SS400は厚板や角材、フラットバー、形鋼など種類が豊富。
- 板厚も3mm~38mm以上まであります。
使い分けの具体例
用途 | 適した材料 | 理由 |
---|---|---|
PCケースや電化製品の外装 | SPCC | 薄くて表面がきれい。プレス・塗装向き |
家電の内部ブラケット | SPCC | 精度が高く、プレス加工が容易 |
機械のフレーム・ベース | SS400 | 強度・剛性が必要な構造材に適している |
溶接構造物(架台・溶接フレーム) | SS400 | 溶接性が良好で、構造材として広く使用 |
加工ベース・治具 | SS400ミガキ材 | 寸法安定性が必要、精度が出しやすい |
SPCCとSS400の材料選定のポイント
材料を選ぶ際は、次のポイントを意識すると失敗が少なくなります。
板厚と形状のニーズ
- 薄板・板金プレス → SPCC
- 厚板・構造材 → SS400
強度と剛性の必要性
- 高剛性や荷重支持が必要 → SS400
- 外装部品やカバー → SPCC
表面の仕上げ要求
- 塗装・メッキ仕上げ → SPCCが有利
- 精度が必要 → SPCCまたはSS400ミガキ材
SPCCとSS400の注意点
SPCCは耐食性がない
- SPCCは見た目は美しいものの、すぐにサビます。
- 表面保護のためには、塗装やメッキ処理が必須です。
- 錆びたくない環境では、SUS材やメッキ処理を検討しましょう。
SS400は公差が粗め
- SS400は構造材として使われることが多いため、寸法公差は厳しくありません。
- 精密部品やすり合わせが必要な部品には不向きです。
- その場合はミガキ材やS45Cなどが選ばれます。
直接の置き換えはNG
たとえば、「SPCCが手に入らないからSS400で代用しよう」と考えると、板厚や加工性、表面の仕上がりなどがまったく異なるためトラブルの元です。逆もしかり。
比較項目 | SPCC | SS400 |
---|---|---|
用途 | 電装品・外装部品 | 構造物・溶接部品 |
板厚範囲 | 薄板(0.8~3.2mm) | 厚板(3mm~38mm以上) |
加工性 | 優れる(プレス・曲げ) | 切削・溶接向き |
表面仕上げ | 滑らか | 粗め(黒皮) |
耐食性 | 無し(塗装必要) | 無し(塗装必要) |
寸法精度 | 高い | 粗い(黒皮)・やや良い(ミガキ材) |

SPCCとSS400は見た目が似ていても、使いどころはまったく異なります。
設計や材料選定の場面では、「薄板か?強度が必要か?加工方法は?」など、目的に応じて正しく選ぶことが大切です。
まとめ
SPCCは、機械設計において非常に汎用性が高く、加工性やコストパフォーマンスに優れた冷間圧延鋼板です。用途に応じて適切な板厚や表面仕上げを選定することで、製品の機能や外観を向上させることができます。
特に、薄板は軽量化や外装材として使用され、中厚板や厚板は構造材としての役割を果たします。また、表面品質や加工性の高さから、塗装やめっきが必要な部品にも最適です。機械設計の段階で、SPCCの特性をしっかりと理解し、最適な選定を行うことが、効率的で高品質な製品設計の鍵となります。
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