機械部品の製造において、
高い精度を要求される部品には熱処理が施されることが多いです。
特に、S45CやSCM440、SKD11といった
強度向上を目的とした焼入れ処理や、耐摩耗性を向上させる浸炭焼入れ、
窒化処理が施される材料は、熱処理後の変形が避けられません。
そのため、熱処理後の仕上げ工程を考慮し、
事前に研磨代を確保しておくことが非常に重要です。
本記事では、機械加工において
熱処理前に0.2mm~0.4mm程度の研磨代を確保する理由と、
そのメリットについて解説します。
なぜ熱処理前に研磨代を確保するのか?
熱処理を行うと、材料内部の組織変化によって膨張や収縮、歪みが発生します。
その結果、寸法精度が狂い、表面の仕上げも粗くなるため、
そのままの状態では使用できないことがほとんどです。
そこで、熱処理後に最終的な仕上げ加工(研削やラップ研磨など)を行うための
「研磨代」を事前に残しておくことが重要になります。
熱処理による膨張・収縮・歪みと研磨代の重要性
機械設計において、強度や耐摩耗性を向上させるために
材料に熱処理(焼入れ、焼戻し、浸炭焼入れなど)を施すことがあります。
しかし、熱処理を行うと、材料内部の組織変化によって膨張や収縮、
歪みが発生し、寸法や形状に影響を及ぼすことが知られています。
そのため、熱処理後の仕上げ加工を見越して、
事前に研磨代(仕上げのために削る余裕の寸法)を確保することが不可欠です。
本項では、熱処理によって生じる寸法変化のメカニズムを詳しく解説し、
適切な研磨代の設定について紹介します。
熱処理による膨張・収縮・歪みのメカニズム
材料内部の組織変化による寸法変化
金属材料は、加熱・冷却によって内部組織(結晶構造)が変化するため、
それに伴い体積の膨張や収縮が発生します。
特に、鉄鋼材料(炭素鋼や合金鋼)では、以下のような変化が起こります。
| 熱処理過程 | 体積変化(寸法変化) |
|---|---|
| 加熱(オーステナイト化) | 膨張 |
| 急冷(焼入れ) | 収縮 |
| 焼戻し(低温) | わずかに収縮 |
| 焼戻し(高温) | 収縮 |
例えば、S45Cのような炭素鋼を焼入れすると、体積が膨張するため、
寸法がわずかに大きくなります。
その後の焼戻しで多少収縮しますが、元の寸法には戻りません。
一方、浸炭焼入れや窒化処理を行うと、表面層の硬度が上がると同時に
表面に引張応力が生じるため、歪みが発生しやすくなるのが特徴です。
熱処理による歪みの発生原因
熱処理後の歪みは、以下の要因によって引き起こされます。
温度変化による熱応力
加熱時
材料内部と外部で温度差が生じると、
異なる膨張率により内部応力が発生し、歪みが生じる。
冷却時
急冷(焼入れ)すると、表面から冷えるため、
表面と内部で収縮量が異なり、歪みが発生する。
組織変化による体積膨張・収縮の不均一性
部材の形状が複雑なほど、膨張・収縮の不均一性が大きくなり、変形が大きくなる。
焼入れでは、急冷により内部と表面で組織変化が異なり、反りやねじれが生じることがある。
残留応力の解放
熱処理前の加工によって内部に蓄積された応力が、
熱処理時に解放されることで変形を引き起こす。
研磨代を確保するメリット 3選
1. 熱処理後の歪みを補正できる
熱処理による膨張や収縮の影響で、部品の寸法精度が変化します。
研磨代を確保しておけば、熱処理後に研削加工を行うことで
寸法を正確に仕上げることが可能です。
2. 表面硬度や平滑度を向上できる
熱処理後の表面は、硬度が向上しているものの、
微細なデコボコが生じている場合があります。
研磨代を確保することで、
最終的に高精度な表面仕上げができ、摺動性や接触精度が向上します。
3. クラックや異常組織を除去できる
焼入れによって発生する可能性のある
焼き割れや異常組織(デカボコ組織)を除去するためにも、
一定の研磨代を残しておくことが有効です。
研磨代設定時の注意点
(1) 過剰な研磨代はNG!
研磨代を多くしすぎると、
仕上げ研削の工数が増え、加工コストや時間がかかるだけでなく、
研削熱による焼き戻り(硬度低下)のリスクが高まる。
(2) 熱処理前の精度を高めることが重要
熱処理後の変形を最小限に抑えるために、
事前の加工精度を高める(公差を厳守し、均一な形状にする)ことが推奨される。
(3) 熱処理後の応力除去処理(低温焼戻し)を活用する
焼入れ後の低温焼戻しを行うことで、
残留応力を除去し、歪みを最小限に抑えることができる。
熱処理により、膨張・収縮・歪みが発生する
変形を補正するために、事前に0.2mm~0.4mm程度の研磨代を確保する
過剰な研磨代は加工コストや焼き戻りリスクを増加させるため、適正な設定が重要

機械設計において、熱処理を考慮した設計と加工の工夫が、
最終的な製品精度や性能の向上につながります。
まとめ
機械設計において、熱処理を伴う部品の加工では
0.2mm~0.4mm程度の研磨代を確保することが重要です。
熱処理後の寸法変化を補正できる
表面仕上げを向上させ、硬度低下を防げる
クラックや異常組織を除去できる
ただし、過剰な研磨代は加工時間の増加や硬度低下につながるため、
適切な量を確保することが重要です。
熱処理を前提とした設計・加工を行う際は、
事前に研磨代を見積もり、最適な寸法精度を確保する工夫を取り入れましょう。



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