機械設計において、ねじは部品同士をしっかりと固定するために欠かせない要素です。
一般的には「右ねじ」が使われていますが、実は「左ねじ」という特殊なねじも存在します。
ではなぜ、わざわざ“逆向き”のねじを使うのでしょうか?
この記事では、「右ねじ」と「左ねじ」の違いや用途、使い分けの理由、そして設計上の注意点まで、初心者の方でも理解しやすいように丁寧に解説していきます。
右ねじ・左ねじとは?
ねじには、「右ねじ(右巻き)」と「左ねじ(左巻き)」の2種類があります。
これは、ねじをどちらの方向に回すと締まるかの違いです。
種類 | 締まる方向 | 緩む方向 | 特徴 |
---|---|---|---|
🔵 右ねじ | 時計回り(右回し) | 反時計回り(左回し) | 一般的に最も多く使われている標準ねじ |
🔴 左ねじ | 反時計回り(左回し) | 時計回り(右回し) | 特殊用途向け。 逆回転で緩むのを防ぐために使用される |
ほとんどの機械やボルトは右ねじですが、動作によっては左ねじでないと不具合が出る場合もあるため、正しく理解して使い分けることが大切です。
右ねじが一般的な理由
✅ 人間の動作と一致する
- 人間が手でねじを回すとき、右利きであれば自然と時計回りに締める動作を行います。
- これは道具を使っても同じで、右回し=締めるという感覚が自然に定着しています。
✅ 標準化されている
- JISやISOなどでも右ねじが「標準ねじ」として規格化されています。
- 機械部品、工具、部材などは基本的に右ねじ前提で設計されています。
左ねじが使われる場面とは?
左ねじは特殊な用途ですが、「右回転で緩む」問題を防ぎたいときに活躍します。
よくある使用例
回転体の逆回転による緩みを防ぎたいとき
🔍例:
- 自転車の左ペダル → 右ペダルと違って、踏み込むと緩みやすいので左ねじを使用
- グラインダーのディスク固定 → 回転方向によっては工具が緩まないよう左ねじにする
高速回転でねじが緩みやすい構造
- 回転体に使われるシャフトナットやフライホイールなど
- モーター軸の端部など
左右の対称設計をしたい場合
機構上、左右を対称にしたいとき、片側だけ左ねじにすることで、回転方向も左右対称にできる。
左ねじは逆回転による“ゆるみ”を防ぐために使う!
なぜねじは“緩む”のか?
回転体(モーター、シャフト、ホイールなど)に取り付けたねじやボルトは、その回転方向によって自ら緩んでしまうことがあります。
🔍たとえば・・・
- 右回転(時計回り)する部品に右ねじを使った場合
👉 回転方向とねじの締まり方向が同じ
👉 締まりやすい! - 左回転(反時計回り)する部品に右ねじを使った場合
👉 回転方向が“ゆるむ方向”になってしまい、徐々に緩むリスクがある!

これは機械が振動や負荷を受けながら回転していると、少しずつ“戻される力”が働くためです。
左ねじを使うことで緩みを防ぐ!
こうした逆回転による緩みを防ぐために、「回転方向に逆らう締まり方をするねじ」、つまり 左ねじ(逆ねじ) が使われます。
🔍 例:左回転の部品には左ねじを使う!
- 回転方向:反時計回り(左回転)
- 左ねじ → 締まる方向は時計回り(右ねじとは逆)
✅ これにより、回転によってねじが締まる方向に力がかかる
✅ 緩みのリスクが大幅に低減!
設計での注意点
左ねじは非常に便利ですが、使う際には以下の点に注意が必要です。
▶ 図面への明確な記載
- 「M10 LH(左ねじ)」のように“LH”表記を必ず追加する
- 右ねじが標準なので、加工者や組立者にきちんと伝える必要あり
▶ 加工工具(タップ、ダイス)は左ねじ用が必要
- 左ねじのねじ穴には、左ねじ用タップ
- 外ねじを切る場合も、左ねじ用ダイスが必要
▶ 組立時の回転方向も注意
- 締める方向が「反時計回り」になるため、作業者にとっては逆に感じる
- 締めすぎ・ゆるみの判断を間違えないようにする
逆回転する部品には左ねじで“緩み止め”!
ポイント | 内容 |
---|---|
緩みの原因 | 回転方向とねじの締め方向が逆だと、ねじが緩む力がかかる |
左ねじの利点 | 逆回転でも締まる方向に力がかかり、緩みにくい |
注意点 | 工具や図面指示、組立方法を間違えないことが重要 |
左ねじは特殊ではありますが、「緩みを防止する強力な設計手段」のひとつです。

回転方向に応じて正しく使い分けましょう!
回転部品の止めねじは締り勝手で設計するのが基本!
機械設計において、回転軸に取り付けられる部品の脱落防止や位置決めに「止めねじ」を使うことはよくあります。
このとき重要なのが、「ねじの締り勝手(回す向き)」を考慮した設計です。
📌 「締り勝手って何?」
👉 簡単に言えば、「右ねじか左ねじか」のこと。
通常は右ねじが使われますが、回転方向によっては左ねじを使うべき場合があります。
なぜ締り勝手が重要なのか?
例えば、回転軸が右回転(時計回り)する場合、止めねじも右ねじだと、軸と一緒に緩んでしまう可能性があります。
その結果、止めねじが外れて部品が脱落したり、位置ズレが起きてしまうのです。
💡このようなトラブルを防ぐために、「締り勝手で設計する」ことが基本です。
回転部品の止めねじの緩み防止には締り勝手を考えよう!
止めねじは、ただ取り付ければいいわけではなく、回転方向と締付方向が一致すると緩みの原因になります。
そのため、回転方向に対して逆方向に締まるように設計する(=締り勝手を考慮する)ことが、機械設計では基本中の基本です。

ちょっとした配慮が、大きなトラブルを防ぐ設計になります!
右ねじ・左ねじの見分け方
現物のねじを見ると、ねじ山の傾きで判別できます。
- 右ねじ:ねじを縦に持ったとき、ねじ山が右上に上がっていく(「\\\」)
- 左ねじ:ねじを縦に持ったとき、ねじ山が左上に上がっていく(「///」)
また、ねじの頭部や軸に「LH(Left Hand)」と刻印されている場合は、左ねじであることを意味します。
左ねじを使う際の注意点
🔸 部品の誤組付け防止が必要
- 右ねじと左ねじを混在させる場合、組立工程でのミスを防ぐ必要があります。
- 工夫(マーキング、形状の差別化など)をしてトラブルを防ぎましょう。
🔸 左ねじは市販品が少ない
- 特殊な部品のため、汎用部品としてはあまり流通していません。
- 設計段階で調達性やコストを考慮することが大切です。
🔸 規格や寸法に注意
- JISでも左ねじ規格は定められていますが、標準品とは異なります。
- 図面で左ねじであることを明確に指示する必要があります。
左ねじを使うなら、タップ加工も左ねじ用で!
左ねじを使うときの「落とし穴」
左ねじを採用したとしても、「タップ加工」(ねじ穴の加工)が右ねじのままだと、当然ながらねじが締まりません!
これは初心者が最も見落としやすいポイントの一つです。
タップ加工にも「左ねじ用タップ」がある
通常のタップは右ねじを切るための工具です。
左ねじを切りたい場合には、左ねじ用のタップ(左ねじタップ)が必要になります。
タップの種類 | 加工できるねじの種類 | 締まる方向 |
---|---|---|
右ねじタップ | 右ねじ(標準) | 時計回りで締まる |
左ねじタップ | 左ねじ(特殊) | 反時計回りで締まる |
実務での注意ポイント
加工現場との情報共有が重要!
- 図面には「左ねじ加工(LHタップ)」の明記が必須です。
- 「M8 左ねじ(LH)」のように、サイズと共にねじ方向をしっかり指示しましょう。
工具の在庫確認を忘れずに!
- 左ねじタップは汎用品ではないため、工場に常備されていないことが多いです。
- 特殊なサイズになると、納期やコストにも注意が必要です。
タップ加工後の検査も慎重に!
- 左ねじ穴は、見た目で右ねじとほとんど見分けがつかないこともあります。
- 実際にねじ込んでみて確認するか、「ねじゲージ」を使って検査します。
左ねじを使うなら「ねじ穴」も左ねじ!
項目 | 内容 |
---|---|
左ねじ使用時の注意 | 右ねじタップでは加工できない |
必要な対応 | 左ねじタップを使う / 図面に明記する |
よくあるミス | タップ加工が右ねじになっていて、組立時に入らない |
左ねじは使いどころが限られる分、間違いが起きやすいポイントでもあります。

図面指示と加工工程の両方で、「これは左ねじである」ということをしっかり伝える・確認することが大切です!
まとめ
右ねじと左ねじは、一見するとただの“回す方向の違い”に見えますが、用途や設計上の目的によって明確に使い分ける必要があります。
特に左ねじは、逆回転による緩みを防ぎたい場面で有効に活用され、信頼性の高い締結を実現するための重要な選択肢です。
設計時には、「回転方向」や「締結の安全性」、「加工や組立の可否」などを考慮し、ねじの種類を選定しましょう。
適切なねじの選定が、製品の耐久性と安全性を大きく左右します。
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