高周波焼入れとは?|表面だけを硬くする熱処理の基本と使いどころ

表面処理・熱処理

機械部品に「硬さ」が必要なとき、
よく使われる熱処理のひとつが「高周波焼入れ(こうしゅうはやきいれ)」です。

特に、シャフトやカム、ギヤなどの表面だけを硬くしたい場面でよく登場します。

この記事では、高周波焼入れの仕組み・特徴・使い分けポイントを、
初心者にもわかりやすく解説します。


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高周波焼入れとは?

高周波焼入れは、金属部品の表面だけを
急速に加熱し、焼入れ(急冷)する熱処理です。

どんな仕組み?

  • コイルに高周波電流を流すと、コイルの中に磁場が発生
  • この磁場に金属を入れると、表面だけがジュッと加熱される
  • すぐに水や油で急冷することで、表面が硬く変化(焼入れ)
はじめ
はじめ

内部は加熱されないため、
「表面だけ硬く、中は粘り強い」構造が得られます。


どんな場面で使うの?

高周波焼入れは、次のような用途に向いています。

適用部品解説
シャフトの軸受部摩耗しやすい外径だけを硬化できる
カムの追従部接触する部分だけを焼入れして耐摩耗性アップ
ギヤの歯先歯全体ではなく、接触部だけを硬くできる
ピン・ロッド・ロール全体を硬くしないことで、コストや靭性を確保

浸炭焼入れとの違いは?

「浸炭焼入れ」との違いを簡単に比較しましょう。

項目高周波焼入れ浸炭焼入れ
加熱方法電磁誘導(直接加熱)炭素拡散(加熱炉)
処理時間短時間(数秒〜数分)長時間(数時間)
硬化深さ1〜5mm程度0.3〜1.2mm程度(浅め)
コスト比較的安価・量産向きやや高め・複雑形状可
形状対応単純な外形(丸棒など)に最適複雑形状も対応可
はじめ
はじめ

高周波焼入れはスピード処理ができ、
コストも抑えやすいというのが大きなメリットです。


高周波焼入れのメリットとデメリット

高周波焼入れのメリット

  • 表面のみ硬化できる
    • 摩耗に強く、内部は粘り強い
  • 処理が速い
    • 生産効率が高く、量産に向いている
  • 必要な部位だけ硬化できる
    • 余計な歪みが出にくい
  • 熱処理コストが比較的安い

高周波焼入れのデメリット

  • 形状が限定される
    • 専用コイルが必要
  • 深さの調整が難しい
    • 厚く焼くには工夫が必要
  • 素材によっては適さない
    • 通常は中炭素鋼(S45Cなど)向け

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高周波焼入れに適した材料は?

高周波焼入れに向いているのは、以下のような焼入れ性のある鋼材です。

材料特徴
S45C一般的な中炭素鋼。コストと性能のバランス◎
SCM440高強度・高靭性が必要なシャフトなどに
SK材(工具鋼)工具や高精度部品に使用される
SUJ2ベアリングに使われることが多いため、硬くて摩耗に強い

高周波焼入れに適した形状とは?|効果的に硬化する設計のコツ

高周波焼入れは、部品の表面だけを硬くすることができる熱処理方法であり、
シャフトやギヤなどの摩耗対策に広く使われています。

しかし、この焼入れ方法には
形状によって向き・不向きがある」という注意点があります。

本項では、高周波焼入れに適した形状・不適な形状・設計のコツについて、
初心者にもわかりやすく解説します。


高周波焼入れに適した形状

高周波焼入れに向いている形状には、いくつかの特徴があります。

外径形状が単純な「丸もの(円筒形)」部品

高周波コイルは基本的に円形に巻かれているため、
以下のような「丸い形状」の部品が最も適しています。

適した部品説明
シャフト回転軸など。外径部だけを硬化しやすい
ピン・ロッド外周面を均一に加熱しやすい
ローラー・ロールすべての表面を効率よく焼入れ可能
はじめ
はじめ

円筒形状であれば加熱効率が良く、
硬化ムラが出にくいのが利点です。


ギヤやスプロケットの「歯先」など局所加熱ができる形状

ギヤのように摩耗する箇所が決まっている場合、
歯先だけを焼入れすることも可能です。

適した部品説明
歯車(ギヤ)歯先だけに硬さが必要なため効率的
カム接触部のみ焼入れすれば良い
スプロケットチェーンの接触部のみを硬化できる
はじめ
はじめ

必要な部分だけを焼入れできるため、
熱歪みが少なくコストも抑えられます


一方向に伸びた「棒状」「軸状」部品

全体に焼入れするのではなく、
軸の一部や特定の長さだけ焼入れしたい場合にも高周波焼入れが使われます。

たとえばシャフトの「軸受け部分」のみ焼入れ
ロッドの「端部だけ」焼入れ

高周波焼入れでは、加熱コイルを移動させることで、
指定した長さだけを処理することができます。


高周波焼入れに不向きな形状

一方で、以下のような形状は高周波焼入れに不向きです。

複雑な凹凸やくぼみが多い形状

🚫 高周波は部品の表面に電流が流れるため、形状が複雑だと加熱ムラが発生します。
🚫 くぼみの中や鋭い角などは加熱しきれず、硬化不足や焼きムラの原因になります。

内部まで均一に硬さが必要な部品

🚫 高周波焼入れは「表面だけ」しか硬くならないので、内部まで硬さが欲しい用途には不向き
🚫 この場合は、「焼入れ鋼+全体焼入れ」が向いています。


高周波焼入れは「形状との相性」がカギ!

高周波焼入れを効果的に使うには、部品形状との相性がとても重要です。

  • 適した形状

円筒形のシャフトやロッド
歯車などの部分焼入れが可能な形状
単純な外形をもつ軸部品

  • 不向きな形状

凹凸が多く複雑な構造
全体を均一に硬くしたい部品
内部まで加熱が必要な構造物

はじめ
はじめ

設計段階から焼入れ方法を意識しておくことで、
高精度・低コストな部品製作が可能になります。

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まとめ|高周波焼入れは“必要最小限の硬さ”を実現できる手法!

高周波焼入れは、次のようなニーズに最適な熱処理です。

✔ 部品の表面だけを硬くしたい
✔ 摩耗に強く、内部は折れにくいようにしたい
シャフトや歯車など、量産する部品に使いたい
✔ コストと納期を抑えたい

部品の機能を保ちつつ、無駄なく硬化できる便利な処理。
それが高周波焼入れです。


はじめ
はじめ

設計において欠かせない材料の特性や用途を解説しています。
適材適所の選定をサポートします。

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