私たちの身の回りには、ベルトやチェーンを使って動いている機械がたくさんあります。
自転車のペダル、車のエンジン、工場のコンベア、印刷機――。
これらは「動力(エネルギー)」を一か所から別の場所へ伝えるための伝達機構を備えており、
その中でも特に多く使われているのが 「ベルト伝達」や「チェーン伝達」 です。
でも、なぜ歯車ではなく「ベルト」や「チェーン」なのでしょうか?
どんな違いがあり、どうやって選べばいいのでしょうか?
この記事では、伝達機構の基礎知識と選定の考え方を、初心者でもわかるようにやさしく解説します。
そもそも「動力伝達機構」とは?
動力伝達機構とは、モーターやエンジンなどの動力源から、別の部分に力を伝える仕組みのことです。
たとえば…
- モーター → ベルト → コンベアローラー
- エンジン → チェーン → 車輪
- モーター → 歯車 → 工作機械の主軸
このように、「回転運動」や「トルク(回す力)」を、
一定の距離を越えて別の軸に伝えることが目的です。
主な動力伝達方式の種類
機械設計では、以下のような方式が使われます。
方式 | 特徴 |
---|---|
歯車(ギア) | 精密、高効率、近距離向け |
ベルト伝達 | 静か、安価、ある程度の距離を伝えられる |
チェーン伝達 | 強力、正確、潤滑が必要 |
カップリング | 同軸で接続、小型機器に最適 |
シャフト(軸)伝達 | 長距離、直線的に動力を伝える |
この記事では、その中でも「ベルト伝達」と「チェーン伝達」に焦点を当てます。
ベルトとチェーンの違いとは?
比較項目 | ベルト伝達 | チェーン伝達 |
---|---|---|
構造 | ゴムや樹脂などの柔らかい輪 | 金属リンクをつないだ鎖 |
摩擦 | 滑ることがある(すべり) | ほぼ滑らず正確に回転伝達 |
騒音 | 静か | 金属同士が当たってうるさい場合も |
寿命 | 摩耗しやすく定期交換が必要 | 潤滑すれば比較的長寿命 |
交換性 | エンドレス構造が多く交換困難 | 継手で分解・交換が容易 |
コスト | 安価 | やや高め |
伝達力 | 軽〜中荷重向け | 中〜重荷重向け |
つまり、ベルトは安くて静かだけど正確さや強度には限界があり、
チェーンは重たい力をしっかり伝えるけど音がうるさく潤滑が必要、という特徴があります。
ベルト伝達が選ばれる理由

ベルトは以下のようなメリットがあります。
✅ 静音性が高い
柔らかい素材でできているため、動作音が小さく、室内機器などに向いています。
✅ 機構がシンプルで安価
プーリー(滑車)とベルトだけで構成できるため、構造も簡単で設計しやすく、コストも抑えられます。
✅ 軽負荷~中負荷の機械に最適
扇風機の首振り機構、プリンター、コピー機、コンベアなどでよく使われます。
✅ 衝撃を吸収できる
柔軟性があるため、モーターが急停止しても衝撃を緩和できます。
ベルト伝達のデメリット
🚫 エンドレス構造が多く交換が困難
ベルトの多くは「エンドレス(切れ目のない輪っか)構造」であるため、
交換には機械の分解が必要になることが多く、作業性が悪いのが難点です。
機械の奥にあると交換に手間と時間がかかります。
🚫 すべりが起きやすい
普通のVベルトや平ベルトは、摩擦力で回転を伝えるため、すべりが発生する可能性があります。
➡ 対応策としては、「タイミングベルト(歯付きベルト)」を使用する方法があります。
タイミングベルトはベルトの内側に歯が刻まれており、専用のプーリーと噛み合って滑りを防止できます。
チェーン伝達が選ばれる理由

チェーンの最大の特長は「滑らず強力に伝えられる」ことです。
✅ 高トルク伝達に対応
ベルトでは滑ってしまうような重機や工場設備でも、チェーンは確実に動力を伝えます。
✅ 正確な位置制御が可能
自転車やオートバイなど、決まった回転を正確に伝える必要がある場面で有効です。
✅ 高耐久(ただし潤滑必須)
しっかりメンテナンスすれば長持ちします。定期的な注油や清掃が不可欠です。
チェーン伝達のデメリット
🚫 騒音が大きくなる場合も
金属同士が噛み合うため、回転中にガチャガチャとした音が出ることがあります。
静音性が求められる機器には不向きです。
🚫 潤滑とメンテナンスが必要
チェーンは潤滑しないと摩耗やサビの原因になります。
定期的なオイル注入や清掃が必須です。
どちらを選ぶ?判断ポイント
実際の設計でベルトとチェーン、どちらを選ぶかは以下の観点で判断します。
判断基準 | ベルトが向いている | チェーンが向いている |
---|---|---|
音が気になるか? | ◎(静か) | △(音が大きい) |
重たい力を伝えるか? | △(軽負荷向け) | ◎(高トルク対応) |
正確な回転が必要か? | △(すべりあり) ◎(タイミングベルト) | ◎(正確な伝達) |
メンテナンスできるか? | ◎(ほぼ不要) | △(潤滑必要) |
交換作業は簡単か? | △(交換困難) | ◎(継手で交換可能) |
コスト重視か? | ◎(安価) | △(やや高価) |
設計時の注意点まとめ
ベルト設計時の注意
- 張力調整が必要(緩いと滑る、強いと軸に負荷)
- エンドレス構造の場合、メンテナンス性を考慮した設計を
- 滑り対策にはタイミングベルトの検討も有効
チェーン設計時の注意
- 潤滑の仕組みを組み込む
- テンショナーで張り調整
- 分割・交換のしやすさを活かした構造にする
ベルトやチェーン以外の選択肢は?
最後に、ベルト・チェーン以外にも、条件に応じた選択肢があります。
方式 | 主な用途 |
---|---|
歯車(ギア) | 高精度・高効率な伝達が必要な機械内部 |
カップリング | 同軸回転をつなぐ(モーターとポンプなど) |
軸継手・ユニバーサルジョイント | 角度がついている軸同士の接続 |
サーボモーター+直結 | 制御性重視、産業ロボットなど |
設計者は「目的」「スペース」「コスト」「メンテ性」「伝達精度」などを踏まえて、最適な方式を選ぶ必要があります。
まとめ:ベルトもチェーンも、設計に応じて使い分けるのが正解!
✔ ベルト
静かで安価。
軽~中負荷、精度より簡便性を重視する機構に最適
✔ チェーン
高トルクで滑らず正確。
中~重負荷、位置制御が必要な用途に強い
どちらが優れているかではなく、どちらがその設計に最適か?という視点で判断するのが、設計者として重要です。
初心者のうちは「見た目」や「なんとなく」で選びがちですが、
その背景にある伝達特性・構造・メンテナンス性・コストを意識することで、より確かな設計ができるようになります。
ぜひ、身の回りの機械の中身を観察しながら、「なぜこの伝達方式を選んだのか?」を考えてみてください。
きっと設計者の意図が見えてくるはずです。
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