ローラーチェーンは、多くの機械や設備で動力伝達に使用されています。
しかし、使用中にチェーンが「伸びる」ことがあり、
その結果、動力伝達の効率低下や機器のトラブルにつながることがあります。
この記事では、ローラーチェーンの伸びの原因と、その対策について解説します。
ローラーチェーンの伸びの原因
ローラーチェーンが伸びる主な原因は、以下の2つです。
摩耗による伸び
チェーンの伸びの多くは摩耗が原因です。
特に、ピンとブッシュが摩耗することで、チェーンのリンク間の隙間が広がり、
結果としてチェーン全体が「伸びた」ように見えます。
摩耗は、主に次の要因で発生します。
潤滑不足
チェーンの可動部に適切な潤滑が行われていないと、摩耗が進行します。
過度な荷重
設計以上の荷重がかかると、摩耗が加速します。
汚れや異物の侵入
チェーンが汚れや異物にさらされると、摩耗が早まります。
弾性変形や塑性変形による伸び
弾性変形とは、一時的な変形のことで、荷重が除かれると元の形に戻る現象です。
塑性変形は、材料が元の形に戻らない変形を指し、
これが発生するとチェーンが恒久的に伸びます。
特に以下の要因で、塑性変形が進みやすくなります。
過剰なテンション
適切なテンション以上の力が常にかかっていると、
チェーンの部品が塑性変形し、伸びが発生します。
衝撃荷重
瞬間的な大きな力(衝撃)が加わると、
材料が変形し伸びにつながることがあります。
ローラーチェーンの伸び対策
チェーンの伸びを防ぐためには、日常的な管理と適切な設計・選定が重要です。
以下の対策を講じることで、伸びを抑制することが可能です。
適切な潤滑の実施
摩耗を防ぐために、チェーンの可動部分には適切な潤滑が必要です。
潤滑油が不足すると、摩耗が早まるため、定期的に潤滑を行うことが重要です。
チェーンのテンションを最適化
チェーンに過剰なテンションがかかっていると、塑性変形や摩耗が加速します。
テンショナーやアイドラーを使って、張力を適切に調整することが必要です。
特に使用開始後のチェーンは初期の伸びが発生しやすいため、定期的な調整が重要です。
適切なチェーンの選定
チェーンが使用環境に合っていない場合、摩耗や変形が早まります。
使用条件に合った耐摩耗性や強度を持つチェーンを選定することが重要です。
衝撃荷重がかかる場合には、
高強度のチェーンや耐衝撃性に優れた材質のものを選ぶことで、
伸びを抑えることができます。
定期点検とメンテナンス
チェーンの定期的な点検やメンテナンスを行うことで、
摩耗や伸びを早期に発見できます。
摩耗や伸びを放置すると装置全体に負荷がかかり、
さらなるトラブルを引き起こす可能性があります。
使用環境の改善
チェーンが汚れや粉塵にさらされる環境では、摩耗が進みやすくなります。
使用環境を改善し、チェーンをクリーンに保つことも重要な対策のひとつです。
チェーンカバーや保護シールドを使用することで、異物の侵入を防ぐことができます。
ローラーチェーンの初期伸びとは?注意点と対策をわかりやすく解説
ローラーチェーンは、動力伝達に広く使われる機械要素です。
しかし、運転を始めてしばらくすると
「チェーンが伸びてきた」「テンションが緩んでスプロケットから外れそう」
といったトラブルが発生することがあります。
この原因の多くは「初期伸び」によるものです。
本記事では、チェーンの初期伸びの仕組みと、
その注意点・対策について初心者にもわかりやすく解説します。
初期伸びとは?
「初期伸び」とは、チェーンを使用し始めた初期段階で生じる伸びのことです。
チェーンが長期間の使用で摩耗して伸びるのとは異なり、
初期伸びは主に部品のなじみ(塑性変形や接触面の微小変形)によって発生します。
主な原因
- ピンとブッシュの接触部のなじみ
- 製造時にわずかな寸法誤差や表面粗さがあり、
運転初期に表面が馴染んで隙間が広がることで伸びが発生。
- 製造時にわずかな寸法誤差や表面粗さがあり、
- 組立時の残留応力の緩和
- ピン圧入やカシメ工程で発生した内部応力が
使用中に緩むことで、わずかな変形が起きる。
- ピン圧入やカシメ工程で発生した内部応力が
この初期伸びは、通常の摩耗伸びよりも短時間で大きく発生するのが特徴です。
初期伸びを放置するとどうなる?
初期伸びを放置すると、以下のような問題が起こります。
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| テンション低下 | チェーンがたるみ、スプロケットとのかみ合いが悪化する |
| 異音・振動 | ガタつきが発生し、異音や振動の原因になる |
| スプロケット摩耗 | かみ合いが悪くなり、スプロケットの歯先が摩耗する |
| チェーン外れ | 最悪の場合、チェーンがスプロケットから外れる危険性も |
初期伸びを考慮しないまま設計・組立を行うと、
運転開始後すぐにトラブルが起きることもあります。
初期伸びの対策方法
① 初期張力をやや強めに設定する
組立時にチェーンのたるみを少なくし、軽くテンションをかけておくことで、
初期伸び後の緩みを吸収できます。
ただし、過度な張りは軸やベアリングに負担をかけるため、
メーカー推奨のたるみ量(チェーンピッチの2〜4%程度)を目安にしましょう。
② 初期なじみ運転を行う
取り付け直後に軽負荷で一定時間運転し、
初期伸びを意図的に発生させてから再調整する方法です。
これにより、実稼働前に伸び分を吸収し、安定した張力状態を保つことができます。
③ 自動張り装置(テンショナー)の導入
振動が多い機械や長時間運転する装置では、
スプリング式テンショナーや油圧テンショナーを使用すると便利です。
これにより、チェーン伸びを自動的に補正でき、メンテナンス頻度を減らせます。
④ 定期点検と再調整を忘れずに
特に運転開始後100時間程度までは、初期伸びの影響が大きく現れます。
そのため、初期運転後に再度チェーン張りを点検・調整することが重要です。
設計段階でのポイント
| 設計項目 | 推奨内容 |
|---|---|
| センタ距離 | 初期伸びを考慮し、調整余裕をもたせる(スライド機構や長穴など) |
| テンション調整構造 | ボルト調整式や自動テンショナーを検討 |
| チェーン選定 | 高精度・低伸びタイプの製品を選ぶ |
初期伸び対策で長寿命化!
ローラーチェーンの「初期伸び」は避けられない現象ですが、
設計段階から考慮し、初期運転後に再調整することで、
トラブルを防ぎ、チェーンの寿命を大きく延ばすことができます。
👉 ポイントのおさらい
これらを実践することで、チェーン伝達機構の信頼性と耐久性を大幅に高めることができます。
チェーンが伸びることによる悪影響とは?
ローラーチェーンは機械設計における代表的な動力伝達要素の一つです。
しかし、使用するうちに避けられない現象が「チェーンの伸び」です。
チェーンが伸びることで発生する問題やその影響について、本項では詳しく解説します。
チェーンが伸びるとは?
チェーンが「伸びる」とは、
チェーンのリンク間のピッチが元の設計寸法よりも広がってしまう現象です。
ここで重要なのは、チェーンが物理的に引き伸ばされるわけではないという点です。
実際には、以下の要因が原因で伸びたように見えるのです。
ピンやブッシュの摩耗
チェーンリンクのピンとブッシュが摩耗することで、
隙間が増え、チェーン全体が伸びたように見えます。
金属疲労や塑性変形
長期間の使用や過負荷が続くと、金属部分が変形してしまうことがあります。
潤滑不足
十分な潤滑がされていない場合、
摩擦による摩耗が進み、伸びの進行が早くなります。
チェーンの伸びによる悪影響
チェーンが伸びることによって、動力伝達系全体にさまざまな問題が発生します。
以下のような悪影響が考えられます。
🚫 スプロケットとの噛み合い不良
チェーンが伸びると、リンクのピッチが設計通りでなくなり、
スプロケットの歯と正確に噛み合わなくなります。
🚫 動力伝達効率の低下
伸びたチェーンは緩みやたわみが大きくなり、動力伝達の効率が低下します。
🚫 振動や騒音の増加
噛み合い不良やチェーンの緩みにより、動作中に異音や振動が発生しやすくなります。
🚫 機械の精度低下
チェーンが伸びることで、動力伝達が不安定になり、機械の動作精度が低下します。
🔍 具体例
🚫 チェーンやスプロケットの寿命低下
伸びたチェーンを使い続けると、スプロケットの歯先が摩耗し、チェーン自体も過度な負荷がかかります。
チェーンの伸びは避けられない現象ですが、
そのまま放置するとスプロケットの噛み合い不良、
動力伝達効率の低下、振動や騒音の増加など、
多くの悪影響を引き起こします。
定期的な点検と適切なメンテナンスを行うことで、
伸びを抑制し、機械の安定稼働を実現することが可能です。

チェーンの伸び対策をしっかりと行い、
設備の信頼性と寿命を最大限に引き延ばしましょう!
チェーンの伸びとオートテンショナーの役割
ローラーチェーンは機械設計において広く使われる動力伝達要素ですが、
使用中に発生する「チェーンの伸び」が避けられない課題です。
このチェーンの伸びを自動で調整し、
効率的な動力伝達を維持する装置がオートテンショナーです。
本項では、チェーンの伸びの原因とその対策としての
オートテンショナーの仕組みや利点について詳しく解説します。
オートテンショナーとは?
オートテンショナーは、チェーンの張り具合を自動で調整し、
適切なテンション(張力)を維持する装置です。
従来は定期的に手動でチェーンの張り調整を行っていましたが、
オートテンショナーを導入することで自動化が可能になり、
保守作業の手間が大幅に削減されます。
オートテンショナーの仕組み
オートテンショナーには主に以下の種類があります。
- スプリング式
- バネの力でチェーンを常に一定の張力に保ちます。
- シンプルな構造でコストも比較的低いです。
- 油圧式
- 油圧の力を利用してテンションを自動調整します。
- 高精度なテンション維持が可能です。
- 空圧式
- 空圧シリンダーを用いてチェーンに適切な張力を与えます。
- 可動範囲が広く、大きな張力調整が可能です。
オートテンショナーの役割と利点
チェーンの寿命延長
適切なテンションが維持されることで、
チェーンやスプロケットの摩耗が軽減されます。
保守コストの削減
張り調整を自動化することで、定期的なメンテナンス作業が不要になります。
動力伝達効率の向上
チェーンのたるみや緩みを防ぎ、安定した動力伝達が実現します。
騒音・振動の低減
適切な張力維持によってチェーンの振動や騒音を抑制できます。
安全性の向上
チェーン外れや歯飛びのリスクが低減し、設備の安定稼働が実現します。
オートテンショナー導入の具体例
🔍 搬送ライン
コンベアチェーンの張り調整を自動化し、停止時間を削減。
🔍 農業機械
長時間稼働する機械のチェーン張力を維持し、摩耗を抑制。
🔍 産業機械
過酷な環境下でも安定したチェーン張力を維持し、効率を向上。
オートテンショナーでチェーン伸びを管理しよう
チェーンの伸びは摩耗や使用条件によって避けられない現象ですが、
その影響を最小限に抑えるためには適切な張力の維持が重要です。
オートテンショナーを導入することで、
チェーンの寿命延長、動力伝達効率の向上、保守作業の削減が実現できます。

「チェーンの伸びは仕方がない」と放置せず、
オートテンショナーを活用して設備の信頼性を高め、
安定した機械稼働を実現しましょう!
まとめ
ローラーチェーンの伸びは主に摩耗や変形によるものであり、
これを防ぐためには適切なメンテナンスと
使用環境に合ったチェーンの選定が不可欠です。
特に使用開始後のチェーンは
初期の伸びが発生しやすいため定期的な調整が重要です。
潤滑、テンション調整、チェーンの適切な選定と点検を徹底することで、
チェーンの伸びを最小限に抑え、長期間の安定稼働を実現できます。




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