ねじやボルトは、機械設計における最も基本的で重要な締結要素です。しかし、そのまま使用すると振動や衝撃、温度変化などで緩みが発生し、最悪の場合は重大な事故につながることもあります。
そこで重要なのが「ねじロック(ゆるみ止め)」です。
この記事では、初心者の方にもわかりやすく、ねじロックの基本から種類、設計での活用ポイントまで詳しく解説します。
なぜねじは緩むのか?緩みのメカニズム

ねじが緩む主な原因は以下のとおりです。
原因 | 説明 |
---|---|
振動・衝撃 | 機械の運転中に微小な動きが繰り返されることで、徐々にゆるみが生じる |
温度変化 | 熱膨張による部品の伸縮で、軸力(締め付け力)が低下する |
塑性変形 | 長時間荷重がかかると、材料が微小に変形し、軸力が減少 |
組付け不良 | トルク不足・部品のかじり・異物混入など |
👉 対策としてねじロックを適用することで、ねじの緩みを防止し、安全性・信頼性を高めます。
ねじロックの主な種類と特徴

ねじロックには大きく分けて「機械的ロック」「化学的ロック」「その他の特殊対策」の3つがあります。
機械的ロック(物理的に緩みを防ぐ)
種類 | 特徴・メリット | 注意点 |
---|---|---|
スプリングワッシャー | 座面にバネ力で食い込む | 緩み止め効果はやや限定的 |
セレート付き座金 | 面接触で摩擦力を高める | 表面硬度の低い部品には不向き |
割ピン・割リング | ナットが回らないように物理的に止める | 穴加工が必要、再使用性は低い |
ダブルナット | ナットを2つ締めることで緩みを防ぐ | ナットが突出する、スペースを取る |
フランジ付きナット セレーション付きナット | 座面のギザギザで滑りを防止 | 緩み防止効果は中程度 |
👉 特徴:再利用可能・比較的安価。製造現場でも多用される。
化学的ロック(接着剤で固着)
種類 | 特徴・メリット | 注意点 |
---|---|---|
ねじロック剤 (嫌気性接着剤) | ロックタイトなどが有名。 空気が遮断された状態で硬化 | 分解が難しいタイプもあるため選定に注意 |
高強度タイプ | 強力に固定し、緩みがほぼ発生しない | 加熱・専用工具でないと外せない |
中強度タイプ | 固定性と分解性のバランスが良い | 機器のメンテナンスに適する |
低強度タイプ | 手で外せる程度。 微小ねじやセンサ固定に使用 | 耐久性はやや低め |
👉 特徴:見た目スッキリ、軽量部品にも適用可能。微細なねじにも有効。
その他のねじ緩み対策(特殊)
対策 | 特徴 |
---|---|
かしめ加工 | ナットやねじの一部を変形させて回転を防止 |
樹脂インサートナット (ナイロンナット) | ナット内部に樹脂リングを入れて回転を防止。再使用可能 |
タブ付きワッシャー | ワッシャーの爪を曲げてナットや周辺部品に引っ掛けてロック |
設計時の選定ポイント
使用環境に応じた選定
条件 | おすすめねじロック |
---|---|
高温環境(100℃以上) | スプリングワッシャー、セレーションナット、割ピン (※接着剤系は硬化しにくい) |
振動の多い機器 | セレート付き座金、ダブルナット、ねじロック剤(高強度) |
分解・メンテが必要 | 中強度のねじロック剤、ナイロンナット |
微細ねじ・センサ取付 | 低強度ねじロック剤、樹脂ワッシャーなど |
部品コスト vs 組立性
✅ スプリングワッシャーなどは安価で再利用も可能
✅ ねじロック剤は部品コストは低いが、塗布作業が必要
✅ セレート付き座金などの高機能ワッシャーは高価だが確実
👉 「緩むと困る箇所」と「コストを抑えたい箇所」で使い分けるのがポイント!
図面への記載例
設計者がねじロックを指示するには、図面に明記する必要があります。
🔍 例)
- 「M6×1.0ボルト+スプリングワッシャー」
- 「M8ナットに中強度ねじロック剤を塗布のこと」
- 「M10:セレート付き座金使用。締付トルク25Nm」
💡塗布量・乾燥時間・再使用可否も、仕様書などで明確にしておくと現場との連携がスムーズ。
ねじロックの検証・品質確認
▶ 製品によっては以下の検査も考慮
検査方法 | 内容 |
---|---|
締付トルク検査 | トルクレンチで適正トルクを管理 |
マーク確認 | 締付済みをマーキングで確認(封印シールも可) |
ロック剤硬化確認 | 指定時間経過後の外れトルクを測定 |
ロックタイトってなに?強度別の使い分けをわかりやすく解説
「ロックタイト(Loctite)」は、工業用ねじロック剤の中でも代表的なブランドで、ねじの緩みを防止する接着剤として、世界中で使用されています。
本項では、初心者の方でも理解しやすいように、
✅ロックタイトの基本的な仕組み
✅強度別(低強度・中強度・高強度)の違い
✅用途ごとの使い分け
をわかりやすく解説します!
ロックタイトとは?どうやってねじをロックするの?
ロックタイトなどのねじロック剤は「嫌気性接着剤」と呼ばれるもので、
▶ 空気(酸素)が遮断された環境
▶ 金属同士の接触面
この2つの条件がそろったときに硬化して、ねじをしっかり固定します。
🟩 塗った直後 → 液体状態
🟥 組み立てて酸素が遮断される → 固体化してねじをロック
ロックタイトの「強度」ってなに?
ロックタイトにはいくつかの強度ランクがあり、それぞれに「どの程度ねじを強く固定するか」が異なります。
強度は主に以下の3種類
強度ランク | 特徴 | 再使用のしやすさ |
---|---|---|
🔵 低強度 | 手で外せる・小ねじ用 | ◎(工具不要なことも) |
🟡 中強度 | 工具で外せる・一般ねじ用 | ○(スパナやレンチで対応可能) |
🔴 高強度 | がっちり固定・外せないレベル | △(加熱や特殊工具が必要) |
🔵 低強度タイプ(例:ロックタイト222)
✅ 特徴
- 手工具や場合によっては指でも外せるレベル
- 小さなねじや、頻繁に取り外す部品に最適
- 軽負荷・微細部品向け
🔍 よく使われる用途
- 電子機器やセンサ固定
- 精密機器内の小ねじ(M2〜M4など)
- アルミ材などの雌ねじ保護
🚫 注意点
- 固定力はあまり高くないので、振動が大きい場所には不向き
- 強度の目安:低いせん断強度(6〜8N/mm²程度)
🟡 中強度タイプ(例:ロックタイト243、248)
✅ 特徴
- 一般的なM5~M12のボルトに最適
- 工具を使えば取り外しが可能
- 油分があっても硬化しやすく、現場での扱いやすさ◎
🔍 よく使われる用途
- ポンプ、バルブ、ギアボックスなどのメンテ部品
- 製造装置のねじ部
- 自動車や産業機械の量産ライン
🚫 注意点
- 分解は可能だが、トルク管理が必要
- 強度の目安:中程度のせん断強度(10〜15N/mm²程度)
🔴 高強度タイプ(例:ロックタイト271、263)
✅ 特徴
- 固定後は工具だけでは基本的に外せない
- 一度固まると熱(約150℃以上)や特殊工具でないと外れない
- 重負荷・長期固定向け
🔍 よく使われる用途
- エンジン回りのボルト
- モーターシャフト・圧力容器など
- 「一度つけたら二度と外したくない部品」
🚫 注意点
- メンテナンス不可の場所に使うこと
- 無理に外そうとするとねじ山破損のリスクあり
- 強度の目安:せん断強度25N/mm²以上
強度別の使い分け早見表
用途例 | おすすめ強度 | 補足 |
---|---|---|
センサの固定、小型装置 | 低強度(Loctite 222) | 頻繁に交換があるなら◎ |
通常のM6ボルト、産業用装置 | 中強度(Loctite 243) | 一般的な現場使用 |
振動や衝撃が強い部位、分解不要な場所 | 高強度(Loctite 263) | 完全固定したい場合に使う |
使用時の注意ポイント
- 接着前にねじを脱脂(パーツクリーナーなど)するとより効果的
- 指定の硬化時間(初期硬化20分、完全硬化24時間程度)を守る
- ねじサイズや母材材質に応じて適切な強度を選ぶことが大切
ロックタイトは「固定の強さ」で選ぼう!
ねじロック剤の選定に迷ったら、まずは「どれくらいの固定力が必要か」「再利用したいか」を考えましょう。
強度 | 固定力 | 取り外しやすさ | 用途例 |
---|---|---|---|
🔵 低強度 | 弱い | ◎ | 小型機器、微細部品 |
🟡 中強度 | 普通 | ○ | 一般機械、組立品 |
🔴 高強度 | 強い | △ | 高負荷部、分解不要 |
ねじの信頼性を保ちながら、メンテ性や製造性を考慮して、ベストな強度を選定するのがプロの設計者!
まとめ:ねじロックで設計の信頼性をアップ!
ねじロックは、機械設計において安全性・耐久性を確保するための重要な要素です。状況に応じたねじロック方法を選定することで、以下のメリットがあります。
✔ 緩みによる事故・不具合を防止
✔ メンテナンス性を維持しつつ、信頼性を確保
✔ 製品の品質・寿命を向上させる
設計段階で「ねじロックをどうするか」を明確にすることが、現場と製品の信頼性をつなぐカギになります。
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