~機械設計でよく使われる材料の特性と選定ポイント~
機械設計の現場では、板金部品を使う機会が多くあります。カバーやブラケット、ケースなどの外装部品や補助部品において、薄くて加工しやすい材料が求められます。そんなときに多くの設計者が選ぶのが「SPCC(冷間圧延鋼板:Cold Rolled Steel Sheet and Strip)」です。
この記事では、SPCCがなぜ板金加工に適しているのか、その特徴・利点・選定時の注意点をわかりやすく解説します。
SPCCとは?
SPCCは、JIS(日本工業規格)で規定されている冷間圧延鋼板の一種で、正式名称は「Cold Rolled Steel Sheet and Strip(冷間圧延鋼板および鋼帯)」です。
- S:Steel(鉄)
- P:Plate(板)
- C:Cold(冷間圧延)
- C:Commercial(商用グレード)
つまり、SPCCは常温で圧延して薄く仕上げられた鉄の板材ということになります。
板金加工の概要
~金属を曲げて、切って、形をつくる技術~
機械のカバーや家電製品の筐体、自動車のボディなど、私たちの身の回りには「金属の板」でできた製品がたくさんあります。こうした製品をつくるために使われているのが、「板金加工(ばんきんかこう)」です。
板金加工とは何か? どんな種類があるのか? どんなメリットがあるのか? について、初心者の方でも理解できるようにやさしく解説します。
板金加工とは?
板金加工とは、金属の薄い板(=板材)を切ったり、曲げたり、穴を開けたりして、製品の形をつくる加工方法のことです。
一般的には厚みが6mm以下の金属板に対して行われる加工を「板金加工」と呼びます。
たとえば以下のような製品はすべて板金加工で作られています。
- エアコンや冷蔵庫の外装
- 機械のカバー、ブラケット
- 金属製の看板やラック
- 電気制御盤のボックス
板金加工の主な工程
板金加工にはさまざまな工程がありますが、代表的なものは次のとおりです。
切断(せつだん)
- レーザー切断:レーザー光で金属を高精度に切る。
- シャーリング:ハサミのような機械で直線カット。
- タレパン(タレットパンチ):金型で穴あけ・抜き加工。

板材を目的の形にカットする工程です。
曲げ加工(ベンディング)
- プレスブレーキという機械で金属板を折り曲げます。
- 箱型の形状やL字型のブラケットなどを作成できます。

製品に立体的な形を持たせる工程です。
穴あけ・成形
- ネジ穴や通気口、電線を通す穴などを開けます。
- バリ(加工のギザギザ)を除去する仕上げも行います。
溶接・組み立て
- 複数の板を接合して、筐体やフレームなどを作ります。
- スポット溶接やTIG溶接などがあります。
表面処理
- 錆びを防ぐために塗装やメッキを行います。
- 美観や耐久性もアップします。
板金加工で使われる代表的な材料
材料名 | 特徴 | 用途例 |
---|---|---|
SPCC | 安価・加工しやすいが錆びやすい | カバー、ブラケットなど |
SUS304 | ステンレスで錆びにくい | 屋外製品、食品機械 |
A5052 | 軽量で加工しやすいアルミ | 精密機器の筐体など |
用途に応じて、鉄・ステンレス・アルミなどが選ばれます。
板金加工のメリット
✅ 軽量・高強度:薄くても十分な強度を持たせられる
✅ 低コスト:金型が不要な加工もあり、少量生産にも対応
✅ 短納期:設計変更に柔軟に対応可能
✅ デザインの自由度が高い:穴の形や曲げ角度など多彩に対応
板金加工とは、金属の板を加工して、さまざまな形の製品をつくる技術です。切る・曲げる・穴を開けるといった基本的な加工を組み合わせることで、複雑な構造物もつくることができます。
機械設計を行う上で板金加工の知識を持っておくと、より現実的でコストを抑えた設計が可能になります。

今後、設計や製造に関わる方は、ぜひ板金加工の基礎を押さえておきましょう!
SPCCが板金加工に向いている理由
加工しやすい(曲げ・打ち抜きが容易)
SPCCは冷間圧延によって表面が滑らかで、板厚が均一になっています。
そのため、以下のような板金加工との相性が非常に良好です。
- 曲げ加工:折り曲げても割れにくい
- プレス加工:せん断性がよく、抜き加工がキレイ
- 溶接性も良好:スポット溶接にも対応可

初心者が設計した形状でも、加工トラブルが起きにくいのが大きな利点です。
安価で入手しやすい
SPCCは量産性が高く、価格も比較的安価です。
そのため、試作や量産の両方に適しており、コストを抑えたい設計にも最適です。
薄板から厚板までラインアップが豊富
SPCCは0.8mm〜3.2mm程度までの厚みが一般的で、用途に応じて厚みを自由に選ぶことができます。特に1.6~3.2mmの範囲は板金設計でよく使われます。
表面処理との相性が良い
SPCCはそのままではサビやすいですが、以下のような表面処理を施すことで、外観や耐食性を大きく改善できます。
- 黒染め
- メッキ(ユニクロ・クロメートなど)
- 塗装(焼付塗装や粉体塗装)

板金カバーや外装品に最適!
なぜSPCCは板金の曲げ加工に向いているのか?
~材料選定のポイントと「曲げやすい条件」をやさしく解説~
板金加工でよく使われる「曲げ加工」。
金属板をL字やU字に折り曲げて立体形状をつくるこの加工において、「材料選び」はとても重要です。
中でもよく登場する材料が「SPCC(冷間圧延鋼板)」。
でも、なぜSPCCが板金の曲げ加工に向いているのでしょうか?
本項では、曲げ加工に適した材料の条件をやさしく解説しながら、SPCCの特性と選ばれる理由を初心者向けにご紹介します。
板金の曲げ加工とは?
板金加工における「曲げ加工(ベンディング)」は、金属の板材を特定の角度に曲げて、箱やブラケットなどの部品形状を作る加工方法です。
使用する機械はプレスブレーキが代表的。
金型で板を挟んで、力を加えてV字やL字に成形します。
ただし、材料によってはひび割れたり反発が大きかったりして、うまく曲がらないことも…。
だからこそ「曲げやすい材料選定」がカギになるのです。
曲げ加工に向いた材料の4つの条件
延性が高い(=割れにくい)
- 延性があると、素材がじわっと変形しやすく、割れにくい。
- 曲げ加工では急な変形に耐える粘り強さが重要。
SPCCは延性があり、しっかり変形しても割れにくいので曲げ加工に向いています。
適度な板厚
- 板厚が薄すぎると反発が弱く、しわやたわみが出やすい。
- 厚すぎると曲げに大きな力が必要で、割れるリスクも。
SPCCは0.8〜3.2mm程度の標準板厚が多く、曲げ加工にちょうど良い厚さ。
圧延方向と曲げ方向の相性
- 材料は製造時にロールされており、この「圧延方向」に沿って曲げると割れやすい。
- 理想は圧延方向に垂直に曲げること。
SPCCは圧延方向による特性変化が比較的穏やかで、加工上の扱いやすさも評価されています。
硬すぎず柔らかすぎない
- 硬すぎると割れやすい、柔らかすぎると形状が安定しない。
- ちょうどよい硬さとしなやかさが必要。
SPCCは焼き入れや特殊処理がされておらず、粘りのある加工性を持っているため、扱いやすい。
SPCCの特徴と板金加工に向く理由
項目 | 内容 |
---|---|
材料名 | SPCC(Steel Plate Cold Commercial) |
種類 | 一般用冷間圧延鋼板 |
特徴 | 表面が滑らかで精度が高く、曲げやすい |
加工性 | 曲げ・打ち抜き・溶接すべてに適する |
コスト | 安価で調達しやすい |
用途例 | 電気筐体、カバー、ブラケット、機械フレームなど |
特に精密板金・筐体部品では、SPCCは標準的な材料として広く使われています。
SPCCと他材料の曲げ加工性比較(参考)
材料 | 特徴 |
---|---|
SPCC | 安価・延性があり非常に扱いやすい |
SUS304 | ステンレスで硬く、割れやすい(注意が必要) |
A5052 | アルミ合金の中でも特に曲げ加工に向いている。 |
板金の曲げ加工において、材料の選定は成功のカギを握ります。
その中でもSPCCは以下の理由で非常に優れた材料です。
✔ 高い延性で割れにくい
✔ 適度な硬さで変形しやすい
✔ 安価で安定供給が可能
✔ 板厚のバリエーションも豊富
✔ 圧延方向の影響が小さく、設計自由度が高い

「はじめて板金加工を設計する」「コストも加工性もバランスよくしたい」という場面では、まずSPCCを選んでおけば間違いありません。
SPCCを使うときの注意点
- サビやすいため、表面処理が前提となる
- 屋外や湿気の多い場所にはSUS材などの耐食性材料を選ぶ方がよい
- 引張強さや硬さはそこまで高くないため、構造部材には不向き
まとめ:SPCCは「安く・簡単に・キレイに」板金加工できる万能材料!
SPCCは、機械設計における板金部品に最適な材料です。加工しやすく、コストも抑えられることから、試作から量産まで幅広く活用されています。ただし、耐食性が弱いため、使用環境に応じて表面処理をしっかり行うことが重要です。
これから板金設計に挑戦する方は、まずはSPCCからスタートしてみると、設計や加工の流れをスムーズに学べるでしょう。
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