機械設計では、鉄やアルミニウムなどの材料に対して、
防錆・耐久性の向上・外観の改善を目的に塗装を行うことがあります。
塗装は比較的身近な表面処理ですが、
単に塗料を塗ればよいわけではありません。
材料の種類や使用環境によって適切な塗料や下地処理は異なり、
塗膜の厚さによる寸法変化にも注意が必要です。
また、機械のカバーや外装部品では、
マンセル値を使用して塗装色を指定することもあります。
この記事では、塗装の基本的な特性から、
種類・材質別の選定ポイント・膜厚・マンセル値による色の管理方法まで、
機械設計初心者にもわかりやすく解説します。
塗装の特性

塗装とは、材料の表面に塗料を塗り、乾燥・硬化させて塗膜を形成する表面処理です。
塗装にはさまざまな目的がありますが、
機械設計では主に「耐食性の向上」と「外観の改善」が重要になります。

耐食性の向上
塗装の代表的な目的の一つが、
金属材料の錆や腐食を抑えることです。
鉄などの金属材料は、水分や酸素、塩分などに
さらされることで腐食が進行する場合があります。
塗装によって材料の表面に保護膜を形成することで、
腐食を引き起こす物質が金属表面に到達しにくくなります。
ただし、塗装すれば完全に錆を防げるわけではありません。
塗膜に傷や剥がれが発生すると、
その部分から腐食が進行する可能性があります。
そのため、長期間の防錆性能を確保するには、次の3つが重要です。
特に屋外設備では、下地処理の品質が塗装の耐久性に大きく影響します。
外観の改善
塗装には、製品の外観を改善する役割もあります。
塗料によってさまざまな色や質感を表現できるため、
機械設備のカバーや操作盤、フレームなどに広く使用されています。
例えば、次のような目的があります。
また、一般的な装飾塗装以外にも、
反射防止や熱放射などの機能を持つ特殊な塗料があります。
塗装は材料を保護するだけでなく、見た目や機能性を調整できる表面処理です。
塗装の選定ポイント

機械設計で塗装を指定する際は、塗料の種類だけでなく、
材料・使用環境・寸法精度などを総合的に考える必要があります。
ここでは、特に重要な4つのポイントを解説します。
材料との適合性
塗装の密着性は、塗装する材料の種類や表面状態によって変わります。
例えば、炭素鋼・アルミニウム・ステンレス・樹脂では、
それぞれ適した下地処理が異なります。
代表的な下地処理には、次のようなものがあります。
| 下地処理 | 主な目的 |
|---|---|
| 脱脂 | 油分や汚れを除去する |
| ケレン・研磨 | 錆や古い塗膜を除去する |
| ブラスト処理 | 表面の汚れや酸化物を除去し、適切な粗さを形成する |
| 化成処理 | 材料表面に化学的な処理皮膜を形成する |
| プライマー塗装 | 上塗り塗料の密着性や防錆性を高める |
プライマーとは、主に材料と上塗り塗料の間に使用する下塗り塗料のことです。
ただし、プライマーを塗れば下地処理が不要になるわけではありません。
材料に合った下地処理と塗料を組み合わせることが、塗装の品質を確保する基本です。

塗装は素材・下地処理・塗料の三拍子がそろうと長持ちします。
設計段階で素材と処理方法をセットで考えることが、
塗膜寿命を延ばすポイントです。
使用環境
塗料は、部品が使用される環境に応じて選定する必要があります。
例えば、屋内で使用する機械カバーと、
雨風にさらされる屋外設備では、求められる性能が異なります。
| 使用環境 | 重視する性能 |
|---|---|
| 一般的な屋内設備 | 防錆性・外観・耐摩耗性 |
| 切削油を使用する設備 | 耐油性・耐薬品性 |
| 水洗いする設備 | 耐水性・耐薬品性 |
| 屋外設備 | 耐候性・耐水性・防錆性 |
| 海岸付近の設備 | 塩分を含む環境での防食性能 |
| 高温環境 | 使用温度に対応した耐熱性 |
特に注意したいのは、屋内だからといって美観だけを考えればよいわけではないという点です。
切削油や洗浄液を使用する設備では、塗膜が薬品によって劣化する可能性もあります。
代表的な塗料の種類
塗料にはさまざまな種類があり、使用目的に応じて使い分けます。
| 塗料・塗装の種類 | 主な特徴 | 選定時のポイント |
|---|---|---|
| エポキシ系 | 防食性・密着性・耐薬品性に優れた製品が多い | 紫外線による変色や白亜化に注意 |
| ウレタン系 | 耐候性や外観を重視する用途に使用される | 屋外設備の上塗り候補 |
| アクリル系 | 外観や耐候性など、製品によって幅広い特性を持つ | 使用環境に適した製品を選ぶ |
| 粉体塗装 | 粉体を付着させ、加熱して硬化させる塗装方法 | 加熱条件・膜厚・マスキングに注意 |
※実際の性能は塗料の配合や製品仕様によって異なります。
また、粉体塗装は塗装方法の分類であり、
エポキシ系やポリエステル系などの粉体塗料があります。
例えば、屋外設備では、防食性を重視した下塗りと、
耐候性を重視した上塗りを組み合わせる場合があります。
塗料を選ぶ際は、塗料単体ではなく、
下塗りから上塗りまでの塗装仕様全体で判断することが重要です。
寸法変化
機械設計で特に注意したいのが、塗装による寸法変化です。
塗装すると材料表面に塗膜が形成されるため、
塗装前後で部品の寸法が変化します。
例えば、塗装後の乾燥塗膜厚が50µm(0.05mm)の場合を考えます。
両側の表面に均一に塗装されたと仮定すると、
これは単純な計算例ですが、
寸法精度が必要な部品では無視できない場合があります。
特に次の箇所には注意が必要です。
- ベアリングの取付面
- 軸と穴のはめあい部分
- ねじ部
- 位置決め面
- 部品同士の接触面
これらの部分では、塗膜によって組立不良や寸法不良が発生する可能性があります。
そのため、塗装を避けたい箇所は、
図面でマスキング範囲を指定することが重要です。
また、実際の塗膜厚は塗装方法や部品形状によって均一にならない場合があります。
寸法精度が必要な箇所は、塗膜厚の公差を含めて検討するか、
塗装しない設計を基本とするとよいでしょう。
耐久性とメンテナンス
塗装は、使用環境や経年変化によって劣化する場合があります。
代表的な劣化現象には、次のようなものがあります。
特に屋外設備では、紫外線や雨水の影響を受けるため、定期的な点検が重要です。
また、塗料の種類によって補修方法や再塗装のしやすさも異なります。
長期間使用する機械設備では、初期費用だけでなく、
補修やメンテナンスまで考慮して塗装を選定することが大切です。
塗装のメリットとデメリット

塗装には、防錆性や外観を改善できるメリットがある一方、
膜厚による寸法変化や塗膜の劣化などの注意点もあります。
| 項目 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 耐食性 | 錆や腐食を抑制できる | 傷や剥離部分から腐食する可能性がある |
| 外観 | 色や光沢を自由に設定しやすい | 経年変化によって変色する場合がある |
| 材料の選択 | さまざまな材料に対応できる | 材質に応じた下地処理が必要 |
| 寸法精度 | 表面を保護できる | 塗膜厚によって寸法が変化する |
| メンテナンス | 部分補修や再塗装が可能な場合がある | 定期的な点検や補修が必要 |
| コスト | 比較的幅広い用途に採用できる | 高性能な塗装や多層塗装は費用が増える |
機械設計では、塗装のメリットだけでなく、
使用環境・必要性能・寸法精度・コストのバランスを考えて選定することが重要です。
塗装に適した材質と選び方

塗装は、さまざまな材料に使用できる表面処理ですが、
すべての材質に同じ塗装仕様が適しているわけではありません。
ここでは、機械設計でよく使用する材料を中心に、特徴と注意点を解説します。
炭素鋼(一般構造用鋼など)
代表例:SS400、S45C、SPCCなど
炭素鋼は、機械設備のフレームやカバー、ブラケットなどに広く使用される材料です。
一般的に錆が発生しやすいため、塗装による防錆対策が有効です。
適切な下地処理を行うことで、塗膜の密着性や防錆性能を確保しやすくなります。
主な用途
選定のポイント
塗装前には、油分や錆、酸化皮膜などを適切に除去します。
特に屋外設備では、防錆プライマーや上塗り塗料を組み合わせ、
使用環境に適した塗装仕様を選びます。
鋳鉄
代表例:FC250、FCD450など
鋳鉄は、工作機械のベッドや機械本体などに使用される材料です。
鋳肌には細かな凹凸があるため、塗装が広く利用されています。
ただし、鋳肌の状態によっては、
油分・鋳物砂・酸化物などが残っている場合があります。
これらが残った状態で塗装すると、
密着不良や塗膜欠陥の原因になることがあります。
主な用途
選定のポイント
適切な脱脂や素地調整を行い、必要に応じて表面の凹凸や巣穴を処理します。
外観品質が求められる場合は、下地の研磨やサーフェーサーによる仕上げも検討します。
アルミニウム(下地処理後)
代表例:A5052、A6061など
アルミニウムは、軽量で耐食性に優れた材料です。
一方、表面には自然酸化皮膜が形成されるため、
塗料の種類や表面状態によっては密着性の確保が難しい場合があります。
そのため、適切な下地処理が重要です。
主な用途
選定のポイント
化成処理や塗装に適したアルマイト処理などを検討します。
ただし、アルマイト処理後の塗装は、処理方法や封孔状態によって
密着性が変わるため、塗料メーカーや処理業者への確認が必要です。
また、化成処理では、使用環境や顧客仕様に応じてクロムフリー処理なども検討します。
ステンレス鋼(下地処理後)
代表例:SUS304、SUS316など
ステンレス鋼は、一般的な炭素鋼と比較して耐食性に優れています。
そのため、塗装しない状態でも使用されることが多い材料です。
一方、外観や識別などの目的で塗装する場合もあります。
ステンレスは表面の不動態皮膜や表面状態によって
塗料の密着性が左右されるため、適切な下地処理が必要です。
主な用途
- 食品機械の外装
- 化学装置のカバー
- 産業機器の筐体
選定のポイント
必要に応じて、ブラスト処理や研磨、ステンレスに適したプライマーなどを検討します。
また、ステンレスは絶対に錆びない材料ではありません。
特に塩分や水分が滞留する環境では、孔食やすきま腐食が発生する場合があります。
塗装の密着性だけでなく、使用環境による腐食リスクも考慮しましょう。
樹脂(適合塗料を使用)
代表例:ABS、ポリカーボネート、PETなど
樹脂材料にも、外観や機能性を改善する目的で塗装が使用されます。
ただし、樹脂は種類によって塗料との相性が大きく異なります。
例えば、ABSは比較的塗装に利用されやすい材料ですが、
PEやPPなどは塗料が密着しにくく、専用プライマーなどの処理が必要になる場合があります。
主な用途
選定のポイント
樹脂の種類に適した塗料を選定することが重要です。
また、塗料に含まれる溶剤によっては、
樹脂の変形や割れが発生する可能性があります。
特にポリカーボネートなどでは、溶剤による応力割れにも注意が必要です。
塗装に適した材質の選び方のポイント
塗装する材料を選定する際は、次の4つを確認しましょう。
- 材料の耐食性
- 錆びやすい材料では、防錆性能を重視した塗装を検討します。
- 下地処理の方法
- 材料ごとに適した脱脂・研磨・化成処理などを確認します。
- 使用環境
- 水分・紫外線・油・薬品など、塗膜に影響する条件を確認します。
- 寸法精度
- 塗装による寸法変化が問題になる箇所は、マスキングなどを検討します。
特に機械設計では、材料・下地処理・塗料をセットで考えることが重要です。

塗装は製品の美観を高めるだけでなく、
腐食や摩耗から保護するための重要な工程です。
材料塗装とマンセル値:色の管理を精度よく行うために

機械設備のカバーや外装部品では、色を指定するために
「マンセル値」が使用されることがあります。
マンセル値を使用することで、
単に「薄いグレー」「明るい黄色」などと指定するよりも、
色を具体的に伝えやすくなります。
ここでは、マンセル値の基本と塗装への活用方法を解説します。
マンセル値とは?
マンセル値とは、色を「色相」「明度」「彩度」の3つの要素で表す方法です。
| 要素 | 英語表記 | 内容 |
|---|---|---|
| 色相 | Hue | 赤・黄・緑などの色の種類 |
| 明度 | Value | 色の明るさ |
| 彩度 | Chroma | 色の鮮やかさ |
① 色相(Hue)
色相は、色の種類を表します。
赤(R)、黄(Y)、緑(G)、青(B)、紫(P)などを基準として表現します。
例えば「5R」は、赤系の色相を表します。
ただし、5Rという指定だけでは、明るさや鮮やかさまでは判断できません。
② 明度(Value)
明度は、色の明るさを表します。
理想的な黒を0、理想的な白を10として表現し、
数値が大きいほど明るい色になります。
例えば、明度2は暗い色、明度8は明るい色です。
③ 彩度(Chroma)
彩度は、色の鮮やかさを表します。
彩度0は無彩色で、数値が大きくなるほど鮮やかな色になります。
なお、彩度の最大値は一律ではなく、色相や明度によって異なります。
マンセル値の表記例
例えば、次のような色指定があります。
5R 4/8
- 5R:赤系の色相
- 4:明度
- 8:彩度
このように、マンセル値では「色相 明度/彩度」の順番で色を表します。
また、グレーなどの無彩色は「N5」のように明度を中心とした表記を使用します。
マンセル値が活用される場面
1. 塗装色の指定
機械のカバーや外装部品では、図面に塗装色を指定することがあります。
例えば「グレーで塗装」と指示するだけでは、
製造者によって色の解釈が異なる可能性があります。
マンセル値を指定すると、目標とする色を具体的に伝えやすくなります。
2. 製品の色の統一
複数の設備や製品を同じ色に統一したい場合にも、マンセル値が役立ちます。
例えば、異なる製造業者に同じ外装色を指定する場合です。
ただし、マンセル値が同じでも、
光沢や塗料の種類によって見た目が変わることがあります。
そのため、必要に応じて承認色見本などを併用します。
3. 品質管理
塗装後の色が指定色に近いかどうかを
確認する際にも、マンセル値を利用できます。
色見本と比較する方法のほか、
測色計を使用して数値で評価する方法もあります。
なお、工業製品の色差管理では、
L*a*b*表色系や色差ΔEなどが広く使用されています。
マンセル値は主に色の指定に、
色差ΔEは基準色との差の評価に活用すると理解するとわかりやすいでしょう。
マンセル値と塗装における注意点
マンセル値で色を指定しても、必ず同じ外観になるとは限りません。
塗料の特性
塗料の種類によって、色の仕上がりや光沢が変わる場合があります。
また、塗膜厚や下地の色によっても見た目が変化することがあります。
環境光の影響
色は、光源によって見え方が変わります。
例えば、太陽光と工場内のLED照明では、
同じ塗装面でも色の印象が異なる場合があります。
そのため、色を厳密に管理する場合は、
標準光源や観察条件をそろえることが重要です。
表面仕上げ
塗装面の粗さや光沢によっても、色の見え方が変わります。
例えば、同じ色でも艶あり塗装と艶消し塗装では、受ける印象が異なります。
マンセル値だけでなく、光沢や表面仕上げも合わせて指定することが大切です。
マンセル値を使用した塗装のプロセス
マンセル値を使用した塗装は、一般的に次のような流れで進めます。
① 色の選定
設計段階で、製品に適した塗装色を決定します。
必要に応じて、マンセル値や色見本を使用して指定します。
② 塗料の選定・調色
使用環境に適した塗料を選び、指定色に合わせて調色します。
色だけでなく、防錆性・耐候性・耐薬品性なども確認します。
③ 試し塗りと確認
試験片などに塗装を行い、色や光沢、表面状態を確認します。
必要に応じて調色や塗装条件を調整します。
④ 本塗装と品質確認
承認された条件で製品を塗装します。
塗装後は、色見本との比較や測色計による色差の確認を行います。
必要に応じて、塗膜厚や外観、密着性なども検査します。
機械設計図面での塗装指定例
図面では、例えば次のような項目を指定します。
※上記は記載方法の一例です。実際には塗装方法、乾燥塗膜厚の許容範囲、下地処理、検査方法などを図面や塗装仕様書で明確にします。
マンセル値を活用するメリットと課題
マンセル値を使用するメリットは、色を具体的に指定できることです。
主なメリット
一方、次のような課題もあります。
主な課題
- 同じマンセル値でも光沢などによって見え方が変わる
- 塗料の種類や塗装条件によって色差が生じる
- 厳密な色管理には色見本や測定条件の統一が必要
- 測色機器の導入や管理にコストがかかる場合がある
そのため、マンセル値は色を指定するための有効な方法ですが、
高い外観品質が必要な場合は、承認色見本や光沢、
色差の許容範囲なども合わせて管理することが重要です。
まとめ

塗装は、機械部品の耐食性や耐久性を高めるだけでなく、
製品の外観や識別性を改善するためにも使用される表面処理です。
ただし、塗装の性能は、材料の種類や下地処理、塗料の選定、使用環境によって変わります。
機械設計で塗装を指定する際は、特に次のポイントを意識しましょう。
特に精度が必要な機械部品では、
塗装の膜厚が組立精度に影響する場合があります。
塗装は単なる仕上げ工程ではなく、
設計段階から考慮しておくべき重要な表面処理です。
材料・使用環境・寸法精度に適した塗装を選定し、
品質とコストのバランスが取れた機械設計につなげましょう。




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