サーボモーターの低慣性タイプと中慣性タイプとは?【推奨負荷慣性モーメント比】

動力選定

〜特徴と選定ポイントをわかりやすく解説〜

サーボモーターを選定する際、「低慣性タイプ」や「中慣性タイプ」といった分類を目にすることがあります。
これは、モーターの回転子(ロータ)が持つ慣性モーメントの違いによるものです。

「どちらを選べばいいの?」と悩む方のために、この記事ではそれぞれの特徴と使い分けのポイントをわかりやすく解説します。


慣性モーメントとは?

まずは「慣性」について簡単におさらいしましょう。

  • 慣性とは、物体が動き出すのを嫌がったり、一度動き出すと止まりにくくなる性質です。
  • モーターにおいては、ロータや負荷が持つ回転のしにくさを示す値が「慣性モーメント」です。

サーボモーターの「低慣性タイプ」や「中慣性タイプ」は、このロータ側の慣性モーメントの大きさの違いを指します。


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低慣性タイプの特徴

✅ ロータの慣性が小さい(軽い)
✅ 加減速が非常に速い(応答性が高い)
✅ 制御が敏感で、チューニングが難しいこともある
✅ 外乱に対する影響を受けやすい(振動しやすい)

適している用途

  • 高速・高頻度の位置決め(例:電子部品の搬送装置、ピック&プレース)
  • 軽い負荷物で素早い動作が求められる機器
  • 精密なステージ制御やサイクルタイム短縮が必要な工程

注意点

🚫 負荷側の慣性が大きすぎると、共振や過負荷が発生しやすい
🚫 制御ゲインの調整がシビアになりやすい


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中慣性タイプの特徴

✅ ロータの慣性がやや大きい(重め)
✅ 加減速は低慣性タイプよりやや遅いが、安定性が高い
✅ 外乱に強く、チューニングがしやすい
✅ 比較的多くの負荷に対応可能

適している用途

  • 安定した動作が求められる装置(例:加工機、搬送ライン)
  • 負荷の変動が大きい機器
  • 負荷慣性とモーター慣性のバランスを取りたい設計

注意点

🚫 加速性能は低慣性タイプに劣る
🚫 サイクルタイム短縮にはやや不利


慣性比で見る選定の目安

モーターと負荷の慣性のバランス(慣性比)は、選定の重要なポイントです。

\( \displaystyle 慣性比=\frac{負荷側慣性} {モーター側慣性}\)

慣性比特徴備考
1〜3非常に安定制御が容易
4〜10一般的に制御可能多くの用途で採用される
10以上制御が困難になることも減速機の導入などを検討する

低慣性タイプはモーターの慣性が小さいため、慣性比が大きくなりがちです。
一方、中慣性タイプはモーター側の慣性が大きいため、慣性比を小さく保ちやすいという特徴があります。


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サーボモーターの推奨負荷慣性モーメント比とは?

〜選定ミスによるトラブルを防ぐために知っておきたいポイント〜

サーボモーターの選定において、「推奨負荷慣性モーメント比」という言葉を見たことがあるかもしれません。これは、モーターと負荷の慣性のバランスを示す非常に重要な指標です。

しかし、慣性比の意味や、なぜ重要なのかがよくわからない…という方も多いのではないでしょうか?

本項では、慣性モーメント比の意味・重要性・確認の方法について、わかりやすく解説します。


推奨慣性比とは?

各サーボモーターメーカーは、モーターごとに「推奨慣性比の上限」をカタログやマニュアルで提示しています。

🔍 例)

  • 三菱電機の中慣性タイプモーター:推奨慣性比 ≦ 17
  • パナソニックの低慣性タイプモーター:推奨慣性比 ≦ 15

これは、「この範囲内ならモーターの制御性能や寿命を確保できますよ」という目安です。


なぜ推奨慣性比を守る必要があるのか?

理由①:制御安定性の確保

慣性比が大きすぎると、負荷が重すぎて応答が鈍くなるだけでなく、共振や振動が発生しやすくなります
結果として、位置ズレやオーバーシュートなどの制御トラブルが起こる可能性があります。

理由②:モーターの過負荷を防ぐ

負荷が大きいと、モーターはより大きなトルクや電流を必要とし、発熱や故障の原因になります。

理由③:チューニングが困難になる

慣性比が大きいと、制御パラメータの調整(ゲイン調整)が非常にシビアになります。
うまく調整しないと、モーターが振動してしまい動作が不安定になることも。


慣性比が大きすぎるとどうなる?

慣性比モーターの状態起こりうる問題例
~5非常に安定制御しやすく、高速応答も可能
~10一般的に許容範囲チューニング次第で問題なし
10以上制御が困難になる可能性過負荷、発熱、振動、応答遅れなど

慣性比を調整する方法

もし設計段階で慣性比が推奨値を超えてしまいそうな場合、以下の対策が有効です:

減速機の導入

減速機を使うことで、モーターから見た負荷の慣性は「減速比の2乗」で小さくなります。

🔍 例)

減速比5:1 → 慣性は1/25になる

モーターのサイズアップ

ロータの慣性が大きいモーター(中慣性タイプや大型モーター)を選ぶことで、慣性比を下げることができます。

動作パターンの見直し

加速度を抑える制御に変更すれば、慣性の影響を緩和できることもあります。


慣性比は必ず確認しよう!

設計段階で以下を確認することが重要です。

  1. 負荷側の慣性モーメントを計算
  2. 使用予定のモーターのロータ慣性を調査
  3. 慣性比を算出
  4. メーカーが提示する推奨慣性比と比較

慣性比(負荷慣性 ÷ モーター慣性)は、サーボモーター制御の安定性に直結する重要指標
✅ 推奨慣性比を無視すると、振動、過熱、応答遅れなどのトラブルを招く
✅ 設計時は必ず慣性比を計算・確認し、必要に応じて減速機やモーター選定を見直す

はじめ
はじめ

モーター選定において、カタログスペックだけで判断せず、「慣性比」という視点を持つことで、より長寿命で安定した設計が可能になります。

選定時のチェックリスト

項目低慣性タイプ中慣性タイプ
加減速応答◎(非常に速い)○(そこそこ速い)
外乱・振動への耐性△(影響を受けやすい)◎(安定している)
制御のチューニング性△(調整が難しい)○(比較的簡単)
重い負荷の対応△(慎重な設計が必要)◎(慣性比が合わせやすい)
用途軽負荷・高速動作中負荷・安定動作

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まとめ

低慣性タイプ

軽負荷で高速・高頻度な動作に適しており、応答性が高い反面、制御が繊細です。

中慣性タイプ

多少重い負荷にも安定して対応でき、チューニングもしやすいため、一般的な装置によく使われます。

慣性比の目安を確認し、負荷とのバランスを重視して選定することが重要です。
サーボモーター選定は、単に出力トルクや回転速度だけでなく、慣性のバランスも非常に重要な要素です。
用途や制御要件に応じて、最適なタイプを選びましょう!


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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