機械設計においてステンレス鋼(SUS材)は、
「錆びにくい材料」として広く使われています。
しかし一口にステンレスと言っても、
SUS304・SUS303・SUS316・SUS440Cなど種類は多く、
▶ どれを選べばよいのかわからない
▶ 全部同じように見える
▶ コスト差や加工性の違いが不明
と悩む設計者は少なくありません。
本記事では、機械設計でよく使われる
代表的なステンレス鋼を体系的に整理し、
特性・コスト・加工性・使い分けの考え方をまとめて解説します。
1. ステンレス鋼とは?機械設計で使われる理由
ステンレス鋼とは、クロムを主成分とする耐食性の高い鋼材です。
ステンレスが選ばれる主な理由
一方で、
といった注意点もあります。
2. 最もよく使われるステンレス「SUS304」
SUS304の基本特性
SUS304は、オーステナイト系ステンレスで、最も汎用的に使われています。
👉「迷ったらSUS304」と言われる理由は、バランスの良さにあります。
SUS304の注意点
- SS400より材料費が高い
- 切削加工はやや難しい
- 熱処理(タフトライドなど)との相性に注意
→ 条件次第では錆びる可能性あり
3. SUS304の規格・表面状態・価格感覚
平鋼の規格(COLD / HOT)
- COLD材:寸法精度・表面品質が良い
- HOT材:安価だが表面は粗い
用途に応じた選定が重要です。
薄板の表面仕上げ
- No.1:熱延板、安価
- 2B:一般的、コスパ良
- #400・HL:外観重視
👉 外装部品では見た目=コストになる点に注意。


4. SS400とSUS304の違いと使い分け
| 項目 | SS400 | SUS304 |
|---|---|---|
| 錆び | 錆びやすい | 錆びにくい |
| コスト | 安い | 高い |
| 加工性 | ◎ | △ |
| 外観 | 普通 | きれい |
使い分けの考え方
「錆びるかどうか」だけで選ばないことが重要です。
5. なぜSUS304は磁石にくっつかないのか?
SUS304はオーステナイト系組織のため、基本的に磁性を持ちません。
設計上の注意
- 加工硬化や冷間加工により、部分的に磁性が出ることがある
- 「磁石につかない=偽物」ではない
品質クレーム対策として、正しい知識が必要です。
6. 切削性重視ならSUS303
SUS303の特徴
- SUS304に硫黄を添加
- 切削加工性が大幅に向上
SUS304との比較
- 耐食性:304 > 303
- 加工性:303 > 304
👉
量産部品・切削メインならSUS303が有効。
7. 耐食性重視ならSUS316
SUS316の特徴
- モリブデン添加
- 塩分・薬品に強い
主な用途
- 食品機械
- 化学装置
- 海沿い設備
👉 SUS304で錆びる環境では、SUS316を検討。
8. 高硬度・耐摩耗ならSUS440C
SUS440Cの特徴
- マルテンサイト系ステンレス
- 熱処理で高硬度化可能
注意点
- 耐食性はSUS304より劣る
- 加工性が悪い
👉 ベアリング・刃物・摺動部に適する材料。
9. ステンレス材料選定の実務的な考え方|設計者が迷わない判断順を解説
ステンレス鋼は「錆びにくい材料」として非常に便利ですが、
安易に選ぶとコスト増・加工トラブル・過剰品質につながりやすい材料でもあります。
実務では、
といった理由の弱い材料選定が起こりがちです。
そこで本記事では、設計者が実務で使える
ステンレス材料選定のおすすめ判断順を、
「なぜその順番なのか」という理由とともに解説します。
① 錆び対策が本当に必要か?を最初に考える
なぜ最初にここを考えるのか
ステンレスは、炭素鋼(SS400など)に比べて材料費も加工費も高い材料です。
そのため、
「本当に錆び対策が必要なのか?」
を最初に確認することが、無駄なコストを防ぐ第一歩になります。
確認すべきポイント
錆びない環境であれば、ステンレスは不要な場合も多くあります。
② SUS304で成立するか?を基準にする
SUS304が基準になる理由
SUS304は、最も一般的で実績の多いステンレス鋼です。
そのため、ステンレスが必要な場合の基準材料として考えるのが基本です。
設計者の考え方
特別な理由がなければ、
SUS304以上の材料を選ぶ必要はありません。
③ 加工性を重視するならSUS303を検討
SUS303とは?
SUS303は、SUS304に硫黄などを添加して
切削加工性を大幅に向上させた材料です。
SUS303が向いているケース
注意点
👉 「錆びにくさより加工性」を優先する場合の選択肢です。
④ 環境が厳しければSUS316を検討する
SUS316が必要になる環境
SUS316は、モリブデンを添加することで
SUS304より高い耐食性を持っています。
設計者が注意すべき点
「念のためSUS316」は避け、
SUS304で不足する理由を明確にしてから選定しましょう。
⑤ 硬さ・耐摩耗が必要ならSUS440C
SUS440Cの特徴
SUS440Cは、熱処理によって高硬度化できるステンレス鋼です。
主な用途
注意点
👉「錆びにくくて硬い」材料が必要な場合の最終手段です。
⑥ 加工現場・調達部門への確認は必須
なぜ確認が必要なのか
設計上は問題なくても、
といった問題が、後から発覚することがよくあります。
初心者におすすめの一言
- 「この材料、加工的にどうですか?」
- 「よく使うステンレスは何ですか?」
こうした会話が、
実務で通用する材料選定力を育てます。
ステンレス材料選定で迷ったときは、
次の順番で考えることが重要です。
- 本当に錆び対策が必要か?
- SUS304で成立するか?
- 加工性重視ならSUS303
- 環境が厳しければSUS316
- 硬さが必要ならSUS440C
- 最後に現場・調達へ確認
この判断順を身につけることで、
が可能になります。
材料選定は「知識」より「考え方」が重要です。
ぜひ日々の設計業務で、この判断順を活用してください。
まとめ
ステンレス鋼は「錆びにくい」という共通点がある一方で、
種類ごとに特性・コスト・加工性は大きく異なります。
SUS304:最も汎用的
SUS303:切削加工向け
SUS316:耐食性重視
SUS440C:高硬度・耐摩耗
正しく使い分けることで、
✔ 過剰品質を防ぎ
✔ コストを抑え
✔ トラブルの少ない機械設計
が実現できます。
ステンレスは「全部同じ」ではありません。
材料特性を理解したうえで、最適な一材を選びましょう。










コメント