【ステンレス鋼】SUS304の特性と材料選定のポイント【加工方法と表面処理】

材料選定

SUS304は、ステンレス鋼の一種であり、耐食性耐熱性に優れたオーステナイト系のステンレス鋼です。
JIS規格において最も汎用性の高いステンレス鋼材で、広範囲な機械設計や構造物、食品機械、医療機器などに広く使用されています。
SUS304はその高い耐食性と優れた加工性から、特に過酷な環境や錆びにくさが求められる場面で多用されます。

以下に、SUS304の特性や材料選定におけるポイントを詳しく解説します。

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SUS304の特性

高い耐食性

  • SUS304は、クロム(Cr)とニッケル(Ni)を主成分とするため、錆に強い特性を持っています。
  • 空気中の酸素と反応して酸化クロムの保護被膜が表面に形成されることで、鉄が酸化(錆びる)するのを防ぎます。
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寸法変化の少なさ

  • 加工後や熱処理後に寸法変化が少なく、精密な加工が求められる部品にも適しています。
  • 機械設計において、安定した寸法精度を保つための重要な材料です。

非磁性

  • SUS304はオーステナイト系ステンレス鋼であり、通常の状態では磁性を持ちません。
  • ただし、冷間加工を加えることで若干の磁性を帯びることがあります。

高い加工性

  • SUS304は、曲げ加工や絞り加工などの成形加工も容易で、複雑な形状の部品製作に適しています。
  • 溶接性も良好で、溶接後の強度や耐食性も維持されるため、複雑な溶接構造物にも利用されます。

低温環境での使用

  • SUS304は、低温環境でも脆くなりにくい特性を持っています。
  • オーステナイト系ステンレス鋼であるため、極低温(-196℃程度)でも靭性を維持し、破損しにくいのが特徴です。
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SUS304の選定ポイント

使用環境

  • SUS304は、耐食性が高いため、屋外環境や湿度の高い場所、塩分を含む環境でも優れた耐久性を発揮します。
  • 建築材や屋外設備などの腐食しやすい環境での使用に適しています。

機能要件

  • 耐熱性や耐食性、さらに非磁性が求められる用途に適しており、食品機械や医療機器、化学工業用機器など、衛生面や機械的強度が重要な場面でよく使用されます。
  • SUS304は耐久性が高く、長期間の使用が求められる構造物にも選ばれる材料です。

コスト管理

  • SUS304は、他の鋼材に比べてやや高価ですが、その優れた耐食性や加工性、耐熱性を考慮すると、トータルコストパフォーマンスに優れた選択肢です。
  • 長期間の使用やメンテナンスコストの削減が期待できるため、特に高耐久性が求められる用途では効果的です。

表面仕上げの選定

  • SUS304は、表面仕上げによってさらに優れた耐食性や外観が得られます。
  • 例えば、バフ研磨や鏡面仕上げを施すことで、美観を向上させつつ、表面に付着した汚れや錆の発生を防ぐことができます。
  • 屋外での使用や衛生的な環境での使用には、適切な表面仕上げが求められます。
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SUS304に適した加工方法と注意点

SUS304は、ステンレス鋼の中で最も広く使われる代表的な材質です。耐食性が高く、機械部品からキッチン用品まで幅広く使用されます。
しかし、炭素鋼(SS材)とは性質が異なるため、加工方法にもいくつかのコツがあります。

ここでは、SUS304に向いている加工方法と、注意すべきポイントを初心者向けに解説します。


切削加工(旋盤・フライス)

  • 特徴
    • 粘り(延性)が高く加工硬化しやすいため、切削中に工具先端が摩耗しやすい材質です。
  • 適した方法
    • 超硬工具やコーティング工具(TiAlNなど)を使用
    • 切削油を十分に使用して発熱を抑える
    • 切り込みをしっかり入れ、空切削を避ける
  • 用途例
    シャフト、フランジ、精密部品

2. 曲げ加工(プレス・板金)

  • 特徴
    • 延性が高く割れにくいですが、バネ戻り(加工後の反発)が大きいため、角度調整が必要です。
  • 適した方法
    • 曲げ型のRを大きめに設定
    • スプリングバックを見越して角度をオーバー目に加工
  • 用途例
    カバー、ブラケット、フレーム部品

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3. 溶接加工(TIG溶接・MIG溶接)

  • 特徴
    • SUS304は溶接性が非常に良く、TIG溶接やMIG溶接で美しい仕上げが可能です。
      ただし、溶接熱によって熱影響部の耐食性が低下することがあります。
  • 適した方法
    • TIG溶接で精密・美観重視の仕上げ
    • 溶接後に酸洗いやパッシベーション処理で耐食性を回復
  • 用途例
    タンク、配管、構造フレーム

4. 研削加工(仕上げ加工)

  • 特徴
    • 硬度はそれほど高くないものの、粘りがあるため砥石の目詰まりが起こりやすいです。
  • 適した方法
    • WA砥石やCBN砥石を使用
    • 冷却水を十分にかけて発熱防止
  • 用途例
    精密平面仕上げ、寸法仕上げ
研磨についての記事はこちら

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5. レーザー・ウォータージェット切断

  • 特徴
    SUS304は熱伝導率が低く、レーザー切断で局部加熱しやすいですが、切り口は比較的きれいに仕上がります。
    ウォータージェットなら熱影響なしで切断可能。
  • 用途例
    板材の輪郭切り、穴加工
レーザー加工についての記事はこちら

加工時の注意点まとめ

  1. 加工硬化を避ける
    → 切削条件を低速・高送りにし、工具摩耗を抑える。
  2. 発熱対策をする
    → 切削油・冷却水を十分に使用。
  3. 溶接後の耐食性回復
    → 酸洗い・パッシベーション処理が必要。
  4. スプリングバック対策
    → 曲げ加工では角度補正を見越す。

SUS304は、耐食性・加工性・強度のバランスが良い万能ステンレスですが、
粘りがあるため炭素鋼とは違った加工条件が必要です。

はじめ
はじめ

切削・曲げ・溶接・研削などほとんどの加工に対応できますが、
加工硬化と発熱対策を押さえておくことが長寿命な製品作りのポイントです。

SUS304に適した表面処理と選び方

SUS304はステンレス鋼の代表格で、耐食性・耐熱性が高く、機械部品から食品機器まで幅広く使われています。
もともと錆びにくい材質ですが、用途や環境によってはさらに耐食性や美観、機能性を高めるための表面処理が有効です。

ここでは、SUS304に適した代表的な表面処理と、それぞれの特徴・使い所を初心者向けに解説します。


1. 酸洗い

  • 特徴
    溶接や加工によってできた酸化皮膜や焼けを酸で除去し、ステンレス本来の耐食性を回復させます。
  • 使い所
    溶接後の部品、熱処理後の部品
  • ポイント
    酸洗い後は表面がマットな銀色になります。さらに美観を求める場合は研磨と組み合わせます。

2. バフ研磨(鏡面仕上げ)

  • 特徴
    表面を鏡のように磨き上げ、美観性と耐食性を向上。
    表面が滑らかになることで汚れが付きにくくなります。
  • 使い所
    装飾部品、厨房機器、医療機器
  • ポイント
    鏡面は見た目がきれいですが、指紋が目立つこともあるので使用環境に注意。

3. ビーズブラスト処理

  • 特徴
    細かいガラスビーズを吹き付け、均一な艶消し面を作ります。
    光沢を抑えた落ち着いた質感に。
  • 使い所
    装飾、外装パネル、反射を避けたい部分
  • ポイント
    見た目は落ち着きますが、鏡面研磨ほどの耐汚性はありません。

4. 硬質クロムメッキ

  • 特徴
    表面硬度を上げ、摩耗や傷に強くします。耐食性もある程度向上。
  • 使い所
    摺動部品、シャフト、金型
  • ポイント
    SUS304はもともと耐食性が高いので、摩耗対策目的で選ぶことが多いです。
硬質クロムメッキについての記事はこちら

5. フッ素コーティング

  • 特徴
    表面にフッ素樹脂をコーティングして、非粘着性・耐薬品性・撥水性を付与。
  • 使い所
    食品機械、薬品タンク、滑りを良くしたい部品
  • ポイント
    耐摩耗性は低いため、摺動や衝撃を受ける部分には不向き。

6. タフトライド処理(塩浴軟窒化)

  • 特徴
    窒素と炭素を表面に浸透させ、表面硬度・耐摩耗性・疲労強度を向上させる処理。
    ただし、耐食性が低下します。
  • 使い所
    摺動部品、摩耗しやすいピンやシャフト、ばね
  • ポイント
    SUS304はタフトライドで表面硬度が大幅に向上しますが、錆びやすくなるので注意が必要です。
    処理条件や下地処理を業者と相談して行うのが重要です。

SUS304表面処理の選び方まとめ

目的おすすめ処理メリット注意点
美観重視バフ研磨鏡面で高級感指紋が目立つ
落ち着いた質感ビーズブラスト反射抑制汚れは付きやすい
摩耗防止硬質クロムメッキ
タフトライド
高硬度化コスト高め
滑り・非粘着フッ素コート撥水・耐薬品耐摩耗性低い

SUS304はそのままでも高い耐食性を持ちますが、
環境・用途に合わせた表面処理でさらに性能や見た目を向上できます。

✅ 美観・光沢 → バフ研磨
✅ 落ち着いた質感 → ビーズブラスト
✅ 摩耗対策 → 硬質クロムメッキ or タフトライド
✅ 滑り・防汚 → フッ素コート

特に、摩耗や疲労強度が重要な部品では、タフトライドを検討する価値があります。

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SUS304はステンレス鋼の中で比較的安価

機械設計において、ステンレス鋼は耐食性や美観の良さから多くの場面で使用されます。その中でも、SUS304は「最も汎用的なステンレス鋼」として知られています。本項目では、SUS304の特徴や選定理由について解説します。


ステンレス鋼の種類

ステンレス鋼は、その成分や組織によって以下のように分類されます。

🔍オーステナイト系ステンレス鋼

  • 主成分:クロム(約18%)とニッケル(約8%)
  • 特徴:優れた耐食性、加工性、溶接性を持つ。
  • 代表例:SUS304、SUS316

🔍フェライト系ステンレス鋼

  • 主成分:クロム(約11-18%)、ニッケルを含まない。
  • 特徴:耐食性に優れ、コストが低いが、溶接性はやや劣る。
  • 代表例:SUS430

🔍マルテンサイト系ステンレス鋼

  • 主成分:クロム(約11-18%)、炭素を多く含む。
  • 特徴:高硬度・高強度で、耐摩耗性に優れるが耐食性はやや低い。
  • 代表例:SUS420、SUS440C

🔍二相系ステンレス鋼

  • 主成分:クロム(約18-28%)、ニッケル、モリブデン。
  • 特徴:オーステナイト系とフェライト系の特性を併せ持つ。
  • 代表例:SUS329J4L

SUS304の特徴:バランスの良いオーステナイト系ステンレス鋼

優れた耐食性

  • クロムとニッケルを含むことで、酸や塩分に強い。
  • 水回り設備や食品加工機械など、腐食が問題となる環境で使用されることが多い。

加工性の良さ

  • オーステナイト組織により柔らかく、成形や切削加工が容易。
  • 溶接性にも優れ、加工後の溶接や仕上げ処理が簡単。

美観と耐久性

  • 光沢のある外観を保つことができ、建築部材や装飾品にも適している。
  • 優れた耐候性により、屋外での使用にも対応可能。

コストパフォーマンスの高さ

  • ステンレス鋼の中では比較的安価で、フェライト系より高性能。
  • SUS316などの高耐食性ステンレスに比べて低コスト。

SUS304が選ばれる理由

用途例具体的な理由
食品加工機械耐食性が高く、衛生環境を維持しやすい
化学装置や貯蔵タンク酸性やアルカリ性の液体にも耐える
建築・インテリア美観を保ちながら、屋内外どちらでも使用可能
家電や日用品親しみやすい価格と優れた耐久性

ステンレス鋼の中でSUS304が安価である理由

ニッケル含有量は最低限の8%に抑えられ、耐食性を確保しつつコストを削減。
✅生産量が多く流通しているため、安定供給が可能で市場価格が安定。
✅高性能なSUS316や二相系ステンレス鋼に比べ、過剰な耐食性を持たせる処理が不要。


注意点

SUS304は耐食性や加工性に優れる一方で、以下のような限界もあります。

🚫塩素環境には注意

高濃度の塩素環境では腐食のリスクが高まるため、SUS316などのモリブデンを含む材料が推奨される。

🚫硬度や強度は限定的

強度が必要な機械部品や耐摩耗用途では、SUS440CやSKD11といった他の材料が適している。


SUS304は、機械設計において「バランスの良いステンレス鋼」として非常に優れた選択肢です。

耐食性、加工性、美観、コストのすべてで高いパフォーマンスを発揮します。
✅食品加工や建築部材、日常生活品まで、幅広い用途に適用可能です。

ただし、使用環境や求められる特性に応じて適切な材料を選ぶことが重要です。SUS304の特性を理解し、設計に活かすことで、製品の品質とコストの最適化を図ることができます。

はじめ
はじめ

コストは高いですが、耐食性と良好な溶接性が求められる部品に最適で、使用頻度が高い鋼材のひとつです。

また、処理が不要なケースが多い為、部品完成までのリードタイムが大幅に短縮できるので、緊急時に頼れる存在!

まとめ

SUS304は、耐食性、耐熱性、加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼であり、幅広い用途に適しています。腐食しやすい環境や高温下での使用、非磁性が要求される用途で非常に信頼性の高い材料です。コストパフォーマンスも良く、建築材から工業機器、食品機械や医療機器まで、多岐にわたる分野での利用が見込まれます。適切な使用環境と表面仕上げを選定することで、長期間の耐久性を維持しつつ、高い性能を発揮することが可能です。


はじめ
はじめ

設計において欠かせない材料の特性や用途を解説しています。
適材適所の選定をサポートします。

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