セットカラーは軸やシャフトに取り付け、部品の位置決めや固定を行うための機械要素です。その性能を評価する際に重要な指標の一つが スラスト荷重(抜け荷重) です。この記事では、スラスト荷重の基本概念と、セットカラーの設計や選定における注意点について解説します。
スラスト荷重(抜け荷重)とは?
スラスト荷重(アキシャル荷重)とは、回転軸の軸方向にかかる力のことを指します。セットカラーが軸にどれだけ強く固定されていても、スラスト荷重がセットカラーの固定力を超えると、軸からずれたり抜けたりする可能性があります。これを「抜け荷重」とも呼び、セットカラーの耐久性や適用範囲を決定する重要な要素です。
スラスト荷重の発生原因
セットカラーにスラスト荷重が発生する主な原因として、以下が挙げられます。
🚫軸方向の振動や衝撃
機械の運転中に発生する軸方向の振動や衝撃によって、セットカラーがずれる可能性があります。
🚫軸方向の押し付け力
軸方向に取り付けられた部品がセットカラーに直接押し付けられる場合、スラスト荷重が発生します。
🚫熱膨張
軸やセットカラーが温度変化によって伸び縮みすることで、軸方向に力がかかる場合があります。
🚫回転時の遠心力
回転中に発生する遠心力が不均一な場合、軸方向にも力がかかることがあります。
セットカラーのスラスト荷重に影響を与える要素
セットカラーの耐スラスト荷重性能は、以下の要因によって決まります。
✅摩擦力
- セットカラーの内径と軸の接触面で発生する摩擦力が、スラスト荷重を支える基本的な力です。
- 摩擦力は、締め付けトルクや表面仕上げ(粗さ)、材質によって変化します。
✅締め付け方式
- ねじ止め式は局所的な締め付け力を利用するため、耐スラスト荷重は比較的低いです。
- スリット式やセパレート式は軸全周に均一な力を加えるため、より高いスラスト荷重に耐えられます。
✅材質
- セットカラーおよび軸の材質の組み合わせが摩擦係数に影響を与えます。
- 鋼やアルミ、樹脂など、材質ごとに耐荷重が異なります。
✅表面仕上げ
- 軸やセットカラーの接触面が滑らかすぎると、摩擦力が低下し、荷重に対する耐性が低くなります。
セットカラーの種類と特徴
セットカラーは、軸やシャフトに取り付けて部品を固定するための機械要素です。機械設計においては、用途や荷重条件に応じて適切な種類のセットカラーを選定することが重要です。ここでは、主なセットカラーの種類とその特徴について解説します。
ねじ止め式セットカラー
構造と特徴
ねじ止め式は、セットカラーの側面に配置されたイモネジ(または固定ネジ)を締め付けて軸を固定する方式です。シンプルで低コストなため、多くの場面で使用されています。
✅メリット
- 構造が簡単で軽量。
- 低コストで入手可能。
- 軽負荷な用途に最適。
🚫デメリット
- 締め付け部分が軸に傷をつける可能性がある。
- 高いラジアル荷重には対応しにくい。
🔍使用例
- 軽量の部品固定
- 位置調整が頻繁に必要な用途
スリット式セットカラー
構造と特徴
スリット式は、セットカラーの一部にスリット(切れ目)が入っており、ネジで締め付けることでスリットが閉じて軸に密着する構造です。摩擦力を利用して軸を固定するため、安定性が高く、軸へのダメージも少ないのが特徴です。
✅メリット
- 軸に傷をつけにくい。
- 軸全体に均一な固定力を発揮する。
- 繰り返し使用に強い。
🚫デメリット
- ねじ止め式に比べてコストが高い。
- 軽量化が求められる設計には不向き。
🔍使用例
- 高精度な位置決めが求められる場面
- 軸が柔らかい素材(アルミや樹脂)で作られている場合
セパレート式セットカラー
構造と特徴
セパレート式は、2つの分割された半円形の部品をボルトで締め付けて軸を固定する構造です。既存の組立状態の軸にも簡単に取り付けることができ、分解が容易なのが特徴です。
✅メリット
- 軸の途中にある部品を分解せずに取り付け可能。
- 軸全周に均一な固定力を提供。
- 軸に傷をつけない。
🚫デメリット
- 部品点数が多いため、コストが高め。
- ネジ止め式よりも重くなる。
🔍使用例
- 組み立て後のシャフトの追加固定
- メンテナンスが頻繁に必要な場面
くさび式セットカラー
構造と特徴
くさび式は、セットカラー内部にくさび構造が組み込まれており、締め付けると軸にくさびが食い込み、強力に固定する構造です。高いラジアル荷重が求められる用途に適しています。
✅メリット
- 高い固定力を実現できる。
- 大きなラジアル荷重に耐えられる。
- 軸への固定位置がずれにくい。
🚫デメリット
- コストが高い。
- 取り外しがやや難しい場合がある。
🔍使用例
- 高荷重の機械設備
- 高速回転が必要な場面
セットカラータイプの選定ポイント
- 使用条件の確認
- 軸にかかる荷重(ラジアル荷重や推力)
- 軸の材質や表面仕上げ
- 回転速度や振動の有無
- 設計要件の把握
- 軸の傷つきを避ける必要があるか
- 繰り返し分解・組み立ての頻度
- コストや重量の制約
- 固定力の確認
- 試験データやメーカーの仕様書を参考に、適切な固定力を持つセットカラーを選択します。

セットカラーには、用途や条件に応じてさまざまな種類があります。
それぞれの特徴を理解し、設計要件に合ったセットカラーを選定することが、効率的で安全な機械設計につながります。
ミスミのセットカラーの最大スラスト荷重について
セットカラーは、シャフト上の部品の位置決めや固定に使用される機械要素であり、スラスト荷重(軸方向荷重)に対する保持力が重要です。ミスミのセットカラーには、さまざまな種類とサイズがあり、それぞれ最大スラスト荷重が異なります。以下に、代表的なセットカラーの種類とその最大スラスト荷重の一部を抜粋してご紹介します。
セットカラーの種類と最大スラスト荷重
スリットタイプの最大スラスト荷重
型式 | 内径 (mm) | 幅 (mm) | 締付ボルト | 材質 | 最大スラスト荷重 (kN) |
---|---|---|---|---|---|
SCS10-10 | 10 | 10 | M4 | S45C | 2.0 |
SSCS10-10 | 10 | 10 | M4 | SUS304 | 1.0 |
SCSA10-10 | 10 | 10 | M4 | A2017 | 0.3 |
SCS20-10 | 20 | 10 | M5 | S45C | 5.8 |
SSCS20-10 | 20 | 10 | M5 | SUS304 | 2.7 |
SCSA20-10 | 20 | 10 | M5 | A2017 | 1.4 |
SCS20-15 | 20 | 15 | M6 | S45C | 10.4 |
SSCS20-15 | 20 | 15 | M6 | SUS304 | 3.0 |
SSCA20-15 | 20 | 15 | M6 | A2017 | 3.0 |
くさびタイプの最大スラスト荷重
型式 | 内径 (mm) | 幅 (mm) | 締付ボルト | 材質 | 最大スラスト荷重 (kN) |
---|---|---|---|---|---|
SCWM10 | 10 | 10 | M4 | S45C | 1.6 |
SSCWM10 | 10 | 10 | M4 | SUS304 | 1.2 |
SCWM20 | 20 | 12 | M5 | S45C | 3.5 |
SSCWM20 | 20 | 12 | M5 | SUS304 | 3.0 |
※上記の数値は、ミスミのカタログに基づく試験結果であり、実際の使用条件によって異なる場合があります。詳細については、ミスミの公式カタログをご参照ください。
注意事項
- 最大スラスト荷重は、セットカラーを所定の締付けトルクで締め付けた後、試験機で圧縮し、シャフトが動き始めたときの荷重として定義されています。
- 締付けトルクは、セットカラーの種類やサイズによって異なります。適切な締付けトルクで取り付けることが重要です。
- 使用するシャフトの材質や表面状態、使用環境によって、実際の保持力が変化する可能性があります。
セットカラーの選定においては、必要なスラスト荷重に対する十分な保持力を持つ製品を選ぶことが重要です。また、適切な取り付け手順と締付けトルクの管理を行うことで、機械装置の信頼性と安全性を確保できます。
セットカラーにおける最大スラスト荷重の変化要因
セットカラーは、シャフト上の部品を固定したり位置決めしたりするために使用される重要な機械要素です。その中でも、軸方向に加わる力(スラスト荷重)に対する保持力は、装置の安全性や信頼性を確保する上で特に重要です。この最大スラスト荷重は、セットカラーの幅や締付けボルトのサイズによって大幅に変化することが知られています。
幅と最大スラスト荷重の関係
セットカラーの幅は、ボルトの締付け力がシャフトに伝わる接触面積に直接影響します。幅が広いほど接触面積が増加し、摩擦力が高まるため、より大きなスラスト荷重に耐えることが可能です。
幅の広さが保持力に与える影響
- 狭い幅のセットカラー
- 軽負荷の用途に適しており、コンパクトな設計が求められる装置で使用されます。
- 最大スラスト荷重は比較的低く、過大な力がかかると滑りが発生する可能性があります。
- 広い幅のセットカラー
- 重負荷や高い保持力が求められる場合に適しています。
- 幅が広がることで、シャフトへの締付力が均等に分散し、摩擦力が増加します。
締付けボルトのサイズと最大スラスト荷重の関係
締付けボルトのサイズは、ボルトが発生する締付け力の大きさに直接関係します。大きなボルトを使用することで、より強い締付け力を得られ、結果としてセットカラーのスラスト荷重に対する耐性が向上します。
ボルトサイズが保持力に与える影響
- 小径ボルト
- 締付けトルクが小さく、発生する摩擦力も低いため、軽負荷の用途に適します。
- 締付けが弱いと、過負荷時に滑りやすくなる可能性があります。
- 大径ボルト
- 高い締付けトルクを発生させることができ、摩擦力が大きくなります。
- 高負荷や動的な負荷がかかる用途で、信頼性の高い保持力を発揮します。
実際の例:幅とボルトサイズによる最大スラスト荷重の比較
以下に、ミスミのセットカラーを例にとり、幅とボルトサイズが最大スラスト荷重に与える影響を示します。(内径10mm、材質S45C)
型式 | 幅 (mm) | ボルトサイズ | 最大スラスト荷重 (kN) |
---|---|---|---|
SCS10-8 | 8 | M3 | 1.2 |
SCS10-10 | 10 | M4 | 2.0 |
SCS10-12 | 12 | M5 | 5.1 |
※上記データは、ミスミのカタログ値をもとにした試験結果です。
幅とボルトサイズの選定ポイント
セットカラーの幅やボルトサイズを選定する際には、以下のポイントを考慮してください。
- 負荷条件の確認
- 必要なスラスト荷重に耐えられる幅とボルトサイズを選びます。
- スペースの制約
- 装置の設計スペースに合わせて適切な幅を選定します。
- 動的負荷の有無
- 動的な負荷が加わる場合は、広い幅や大径ボルトを使用することで安全性を確保します。
- 取り付け時のトルク管理
- 締付けトルクが不足すると滑りが発生しやすくなるため、適切なトルクで取り付けることが重要です。

セットカラーの最大スラスト荷重は、幅と締付けボルトサイズによって大きく変化します。適切な幅とボルトサイズを選定することで、装置の安全性と信頼性を向上させることが可能です。設計時には、負荷条件とスペース制約を十分に考慮し、必要な保持力を満たすセットカラーを選びましょう。
スラスト荷重に対する対策
摩擦係数の向上
軸とセットカラーの接触面に表面処理(例えば、粗面加工やコーティング)を施すことで摩擦力を高め、スラスト荷重への耐性を向上させます。
セットカラーの種類の選定
スリット式とくさび式セットカラーは、スラスト荷重に対する固定力が特に高いため、高荷重がかかる場合に適しています。
締め付けトルクの最適化
設定トルクを適切に管理し、必要以上の締め付けや不十分な固定を防ぎます。
荷重分散の工夫
スラスト荷重が特定のセットカラーに集中しないよう、複数のセットカラーを使用して負荷を分散させます。
補助部品の使用
スラスト荷重が大きい場合は、スラストベアリングや止め輪などの補助部品を併用することで、セットカラーへの負担を軽減できます。
まとめ
セットカラーのスラスト荷重(抜け荷重)は、機械設計における安全性と性能を左右する重要な要素です。用途や荷重条件に応じて、適切な種類と仕様のセットカラーを選定することが、機械全体の信頼性を向上させます。設計時には摩擦力や固定力の計算を正確に行い、必要に応じて試験データやメーカーの技術資料を活用しましょう。
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