機械設計の図面では、寸法を多く記入すれば親切な図面になると思われがちです。
しかし実際には、同じ寸法を重複して記入することは避けるべきとされています。
同じ寸法を複数箇所に記入すると、
・ 寸法の矛盾
・ 設計変更時の修正漏れ
・ 加工者の混乱
・ 不具合や手戻り
などの原因になるためです。
この記事では、機械設計初心者向けに
「なぜ同じ寸法を重複して記入してはいけないのか?」をわかりやすく解説します。
なぜ同じ寸法を重複して記入してはいけないのか?
図面の基本原則の一つに、
「一つの寸法は一か所だけで指示する」
という考え方があります。
同じ寸法を複数の場所に記入すると、
「どちらが正しいの?」
という問題が発生する可能性があります。
図面は、
など、多くの人が見るため、誰が見ても迷わないことが重要です。
重複寸法によるトラブル例
例えば、下図のような部品があったとします。
- 寸法A
- 全長 200mm
- 寸法B
- 左端から穴中心まで 50mm
- 穴中心から右端まで 150mm
この場合、
50+150=200となるため、
一見問題なさそうに見えます。
しかし設計変更で穴位置を60mmに変更した際、
全長200mmはそのままなのに、右側の150mmを修正し忘れてしまうと、
60+150=210mmとなり、図面の中で寸法が矛盾してしまいます。
📌 加工者は困ってしまう
「全長200mmが正しいのか?」
「60+150の210mmが正しいのか?」
と判断できません。
結果として、
につながることがあります。
寸法が多い=親切ではない
初心者のうちは、
「寸法をたくさん入れた方がわかりやすい」と思いがちです。
しかし、必要以上の寸法は、かえって図面を見づらくします。
例えば、
- 同じ長さを何度も記入する
- どこからでも寸法が追えるようにする
- すべての寸法を細かく書く
などは、情報過多になり、
加工者を混乱させる原因になります。
寸法は基準面から統一する
重複寸法を防ぐためには、
基準面を決めて寸法を入れることが重要です。
例えば…
🔍 悪い例
- 左端から50
- 右端から150
- 全長200
と記入する。
⚠️ 寸法が重複している。
🔍 良い例
基準面Aから
- 穴① 50
- 穴② 120
- 全長 200
と記入する。
すべての寸法が基準面から決まるため、
寸法の矛盾が発生しにくくなります。
JISでも重複寸法は避けるのが原則
JIS製図では、同一寸法の重複記入は原則として避けることが推奨されています。
理由は、
のためです。
つまり、
「一つの寸法は一か所だけ」
が基本になります。
どうしても重複寸法を入れる場合もある
実務では、加工や組立をわかりやすくするため、
あえて参考寸法を入れることがあります。
例えば…
(100)
のように括弧付き寸法で表記します。
これは、参考寸法であり、
加工や検査の基準にはしないことを意味します。
参考寸法の用途
- 組立時の目安
- 全体寸法の確認
- 部品配置の確認
などです。
ただし、参考寸法を多用しすぎると逆に見づらくなるため注意が必要です。
実務でよくある失敗
設計変更時の修正漏れ
最も多いトラブルです。一部の寸法だけ変更し、
別の場所の同じ寸法を修正し忘れると、図面内に矛盾が生じます。
CADが進化した現在でも、人間の修正ミスはゼロにはできません。
加工者がどちらを優先すればよいかわからない
図面に矛盾があると、
加工者は勝手に判断できません。
結果として、
- 問い合わせ
- 加工中断
- 納期遅延
につながることがあります。
CAD時代でも重複寸法には注意!見落としやすい3つのポイント
近年は2D CADや3D CADの普及により、寸法変更時の修正漏れは大幅に減りました。
そのため、
「同じ寸法を複数書いても、CADでまとめて変更できるから問題ないのでは?」
と思うこともあるかもしれません。
確かに昔の手書き図面と比べれば、寸法変更によるミスは少なくなっています。
しかし、CAD時代になった現在でも、重複寸法には注意すべき理由があります。
1. 公差を考えると寸法同士で矛盾が生じることがある
CAD上では寸法が一致していても、
公差(許容誤差)を考慮すると矛盾が発生することがあります。
例えば、
- 全長:200±0.1
- 左端から穴中心:50±0.1
- 穴中心から右端:150±0.1
とすると、寸法の足し算は200になります。
しかし公差を考えると、
となり、寸法の関係に矛盾が生じる可能性があります。
寸法が増えるほど公差の累積も増える
このような問題を避けるためにも、必要な寸法だけを記入し、
必要な箇所だけに適切な公差を設定することが重要です。
CAD以外の工程で図面が使われることもある
設計者はCADデータを見ていても、
現場では必ずしもCADデータが使われるとは限りません。
例えば、
- 紙図面で加工している
- 現場で赤ペン修正が入る
- コピー図面を使用する
- 外注先に紙図面で渡す
といったケースは現在でも珍しくありません。
もし重複寸法がある状態で、
一方だけ修正されてしまうと、
図面内に矛盾が発生してしまいます。
2. CADだけで完結するとは限らない
図面は、
- 加工
- 組立
- 検査
- 外注先
など、多くの工程で利用されます。
そのため、「CADだから大丈夫」ではなく、
「誰が見ても迷わない図面」にすることが重要です。
3. 基準以外の寸法が加工の制約になることがある
これは実務で意外と見落とされやすいポイントです。
例えば、基準面Aからの寸法だけで加工できる部品に、
さらに別の位置からの寸法を追加してしまうと、
加工者は両方の寸法を満足させなければならないと考えます。
すると…
本来は1回の段取りで加工できるものが
2回目の段取りが必要になる。
ということがあります。
設計者が意図していない制約を与えてしまう
重複寸法は、「加工しやすくするため」に入れたつもりでも、
逆に加工者に余計な制約を与えてしまう場合があります。
そのため、加工の基準となる寸法を明確にし、
それ以外の寸法は必要最小限にすることが重要です。
CAD時代でも「必要な寸法だけ」が基本
CADの進化によって寸法変更時のリスクは大幅に減りました。
しかし、
などを考えると、「同じ寸法を重複して記入しない」
という基本原則は現在でも変わりません。
設計者に求められる考え方
図面の目的は、「寸法をたくさん書くこと」ではありません。
本当に重要なのは、
- 加工者が迷わない
- 組立者が困らない
- 検査担当者が測定しやすい
- コストを抑えて製品を作れる
ことです。
そのため、「CADだから安心」ではなく、
必要な寸法だけを適切な公差とともに記入する
という基本を守ることが、良い図面づくりにつながります。
実務で覚えておきたいポイント
CADの進化で修正ミスは減った。
しかし、図面はCADだけで完結するものではない。
「必要な寸法だけを記入する」という製図の基本は、今も変わらない。
これが、加工しやすく、コストを抑え、トラブルを防ぐ図面につながるのです。
まとめ
機械設計の図面では、同じ寸法を重複して記入しないことが基本です。
重複寸法は、
▶ 寸法の矛盾
▶ 設計変更時の修正漏れ
▶ 加工者の混乱
▶ 納期遅延
などの原因になります。
寸法は基準面を明確にし、
「一つの寸法は一か所だけ」
を原則とすることで、見やすく、間違いの少ない図面になります。
優れた設計者ほど、情報を増やすのではなく、
「必要な情報を必要な場所に、わかりやすく伝える」ことを意識しています。
それが、トラブルの少ない図面づくりにつながるのです。



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